なんだろこれ、すごい不思議な小説。戦争小説というより幻想小説を読んだような読後感。終盤に入ると、私の脳の奥の方で「ぶうううううんぶううううううううん」とドグラマグラ音が流れ始めたよ。戦争の後遺症で離人症になった男が精神病棟で書いてる手記、という体裁で書かれた文章だからだろうか。しかも塚本監督の映画版て小説とほとんど一緒なのね。もちろん小説にあった宗教的な側面や文学的な表現は、人喰い映画ではなく戦争映画に特化させるため鉈でばっさり削ぎ落としてるんだけど、あの唐突に始まる冒頭も全く一緒だったし、残した部分は台詞から何からほぼ一緒。読むだけで映画の様々な場面がノンストレスで再生できる。いや、映画に無かったシーンも映画の登場人物で速やかに再生できるぐらい。事前に塚本監督の人体解剖映画『ヴィタール』も見ておけば、映像素材としては完璧だと思う(『ヴィタール』で描かれた死後の世界のイメージって完全にコレだよね。監督、どういうことなんですか?…笑)。逆にここまで同じだと、あえて変えてきた部分や、情報の提示順を操作した箇所、台詞から何から全く同じなのに映像化したことで受ける印象が異なる場面というのがかえって浮き彫りにされるので、映画観た人は是非小説も読んでみてください。強くオススメします。割と薄い本なので、数時間喫茶店にこもれば読み終わると思う。
- 作者: 大岡昇平
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1954/05/04
- メディア: 文庫
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