『出版禁止』読了! みんな、謎解きは全部読み終わってからにするんだよ

劇場版公開まで待てない放送禁止ファンはとっとと書店に行って買え! ポチれ! まぎれもなくこれは長江俊和による書籍版「放送禁止シリーズ」のはじまりです。

以前トークショーで「放送禁止でやりたいネタは?」と問われ「恋愛もの」って言ってたけど、ひとまず成就したってことなのかな。装丁がなかなか意味深…(できれば見切れも入れといて欲しかった)。時系列の並べ替えまで終わったのでネタバレどんとこいですが、まあ、なんていうか、謎解きに関してはあまり深追いするなと(え?)。深く潜ると対象を見失う(苦笑)。意外とわかんねえっていうか、見えてるところは割と巻末で謎解きされちゃってるし、意味深っぽく見せてるところをたどっても答えがなかったり、これが真相だと思って話を再構築しても肝心な部分でどっちにもとれるような表現しかしてなくてもにょる。復讐する側は見えてる通りで良いと思うんだけど、復讐される側がなあ。女心の方が複雑。


あと、図らずもワタクシ、数日前の記事でネタバレしてました(汗)。いや、私のせいじゃないだろ! あれは長江さんが悪い。よって過去ログは見ないように。(追記:既に『出版禁止』読んでて「数日前の記事ってどれですか!」という方はこちらです。「純愛」がテーマというなら、ベースとなってるのはこの実話でしょう。)


ちなみに、放送禁止ファンの習性として、登場人物に変な名前の人がいるのを発見した瞬間に逆さにしたり鏡に映したり並べ替えに挑戦したくなるかもしれませんが、今回ばかりはグッと我慢して全部読み終わってからにしてください。いやあ、途中で耐えきれずにやっちゃったんだけど、ひとつは速攻わかったの。そのせいで、ラストの一文に蛇足感が出ちゃって残念だった。もう1個は、途中でやっても夫の名前が「とつお」、妻の名前が「まつ」みたいなわかりやすいことにはなってないので、早めにやっても意味不明なだけでムダっていうか、全てを知ってからその名前の由来に気づいた方が断然怖い。正直、本編読んでるときよりも、ローマ字で書いた名前ちら見しながら本編再読してて当該箇所でふいにその名前の意味がわかってしまった瞬間が一番怖エエエエエエエエエエッ!!!!て鳥肌たった(あの状況でその名前思いついて送ったっていう神経が怖いし、そもそも名前自体が都市伝説にいそうで怖い。夢に出てくる)。


というわけで皆さん、頑張って!


「放送禁止」シリーズ関連過去記事一覧

関連書籍



追記:
「出版禁止 ネタバレ」で来られる方が多いので、著者の長江俊和氏が長年手がけてるテレビ番組『放送禁止』シリーズについて少し説明しておきます。このシリーズは、ある理由でお蔵入りになったドキュメンタリー映像を別のスタッフが再検証し、そこに秘められた驚愕の真実を暴き出すというフェイクドキュメンタリーです。番組の最後に真実につながると思われる映像が次々映し出されるので、そこから事件の真相を推察してゆくのですが、この番組で必ず提示されるメッセージがあります。

事実を積み重ねることが必ずしも真実に結びつくとは限らない
あなたには真実が見えましたか?

人は自分が見たいように真実を作り上げていくものです。自分が見たい真実と矛盾する事実は切り捨てられ、真実にあうよう都合良くねじ曲げて解釈してゆきます。それは『カミュの刺客』を書いた若橋呉成にも言えることだし、『出版禁止』を読んでる読者にも言えることです。それを踏まえた上で再読してみると、また違った真実が見えてくるかもしれません。



追記(2014/11/16):
本作については、始めの方に書いた通り、小説内で書かれた情報をいくら整理しても自信をもって「これが真実です!」と胸をはって語れるストーリーが構築できないので「放送禁止」シリーズ並のちゃんとした解説を書くつもりはないのですが、いまだたくさんの方が検索で来られるので、名前に何か意味がありそうなのに全然わからずもやもやしてるだろう「森角(もりかく)プロデューサー」と「何故、7年も経ってから復讐が実行されたのか」について私なりの見解を書いておきます。


重大なネタバレを含むので本書未読の方はご注意ください


今回、アナグラムで作られた名前は「若橋呉成(わかはしくれなり)」と「新藤七緒(しんどうななお)」の二人だけです。何故なら、本作のアナグラムは『出版禁止』を書いた長江氏が読者のために考案した仕掛けではなく、“若橋呉成自身が仕掛けたもの”という体裁をとっているからです。たくさんいる登場人物の中のうち、何故この2つの名前に絞られるのかというと、日記の中には、当初原稿内で使っていた名前からこの名前に書き換えて欲しい旨を担当編集者にメールした記述がわざわざ残されているからです。日付は若橋が犯行を行った直後で、どちらの名前も自分が犯した犯行を元ネタにして作られています。そうなると、熊切敏、永津佐和子、神湯堯は【実名】という体裁をとっているためアナグラムから除外されます。【仮名】で登場してる「森角啓二」は、読み方が一般的な“もりずみ”ではなく“もりかく”としてるあたりに何か意図的なニオイを感じたくなるのですが、若橋が自分の使命を自覚する前から使ってる名前と考えられるためアナグラムから除外できるかと。「じゃあなんで“もりずみ”ではなく“もりかく”なのか、意味ありげすぎるじゃないか」と納得できない方もおられるかと思いますが、残念ながら“森角(もりかく)プロデューサー”という方は実在します(下の名前は違うけど)。それが、『ねこタクシー』『マメシバ一郎』シリーズでお馴染み森角威之プロデューサーなんですが、彼のプロデュース作品に『阿部定 〜最後の七日間〜』という映画があるんですね。登場人物の名前を考えるのに友人・知人・実在の人物を参考にすることはよくあるので、今回の本を書くにあたり阿部定を始め心中事件の資料をいろいろ漁ってるときに目についたか、長江さんが森角プロデューサーと知り合いだったのか、真相はよくわかりませんが、このあたりが元ネタと思っていいんじゃないかと。実際、“熊切"という名字の映画監督も実在しますし。


あと、「何故、心中事件から7年も経って突然復讐が実行されたのか」についてなんですが、7年ってところには実は意味がなくて、「同居していた新藤七緒の母親が肺がんで亡くなった」のがポイントだと思います。小説の中では亡くなった時期について「一昨年」とか「3年前」といった書き方をしているのですが、若橋が熊切の死の真相を調べてほしいと頼まれたのが「2年前(=心中事件から5年後)」なんで、同居してた母親が死に七緒が一人になったことで動きやすくなった、ってことなんではないかと思います。



追記(2015/7/4):
7月22日に新潮社より新作『掲載禁止』が発売されます。詳しくはこちらでどうぞ。



追記(2017/3/2):
3月1日に新潮社より文庫版が発売されました。

長江さん曰く「文庫版のあとがきを書き加え、『出版禁止』の真相にさらに踏み込んでいます。」とのこと(ソースはこちら)。


追記(2017/4/15):
4月14日に新潮社より新作『検索禁止』が発売されます。詳しくはこちらでどうぞ。

初のノンフィクションです。


追記(2018.8.14):
シリーズ第2弾『出版禁止 死刑囚の歌』が8月22日に発売されます。
http://www.shinchosha.co.jp/book/336173/

“幼児ふたりを殺した罪で確定死刑囚となった男。鬼畜とよばれたその男、望月は、法廷でも意味不明な言動で、反省の弁をひとことも口にしなかった。なぜ彼はあんなことを?”


追記(2018/8/26):
最新作『死刑囚の歌』の感想を探してる方は↓こちらからどうぞ。



追記(2021.9.13):
シリーズ第3弾『出版禁止 死刑囚の歌』が8月31日に発売されました。
https://www.shinchosha.co.jp/book/336174/