『緑子/MIDORI-KO』トーク、水江未来×土居伸彰×黒坂圭太監督(@渋谷アップリンクX)

10/1(土)『緑子/MIDORI-KO』上映後に、アニメーション作家の水江未来さんとアニメーション評論家の土居伸彰さん、そして黒坂圭太監督によるトークショーが行われました。水江さんは純粋に音と絵が連動して動くおもしろさを追求してる日本ではかなり少ないタイプのアニメーション作家。土居さんは様々なタイプのアートアニメーションに精通している数少ない評論家のひとりということで、どちらも日本では稀少な存在であり、かつ、黒坂監督が敬愛・尊敬するお二人ということで本日ゲストとして呼ばれたようです(ちなみに二人とも9月にユーロスペースで特集上映されてたCALF(カーフ)のメンバーでもあります)。


まずは黒坂監督が個人的に大好きだという水江さんの短編作品を自己紹介がてらに上映しつつ、3人で一緒に行ってきたオタワ国際アニメーション映画祭についての話から。


↓こちらが水江さんの作品。

このトレイラーの1:08過ぎから流れる無数の細胞がうじゃうじゃ蠢いてるやつが本日流れた短編(サムネイル画像がまさにそれです)。神経症の人が見たらどうにかなっちゃうんじゃないかと思うほどの密度で面白かったです。


オタワのお客さんはやはりリアクションが大きいらしく、コミカルなシーンになるとどっと笑いが起こるのでわかりやすいと。日本のお客さんは反応が薄いので笑わせようと思って入れたシーンでウケてるのか滑ってるのかよくわからず、今日のお客さんの反応はどうだったのかと心配する黒坂監督に、「まあ、初めて見る人は大概呆気にとられるんで」と土居さんがフォローを入れる一幕も(笑。大丈夫です。ファイティングポーズをとる緑子とかちゃんとウケてましたから)。土居さんによると、本作を見たヤン・シュヴァンクマイエルがいたく共感してたそうで、彼も食をモチーフにした作品をたくさん撮っているけれど、シュヴァンクマイエルの場合は食べることがあまり好きではないらしく、“食”と“排泄”がよくモチーフになる黒坂さんにもそのあたりのことを尋ねてみると、黒坂さんの場合はどちらも「大好き」とのこと(なるほど。緑子が巨大化するシーンで「巨大なウ○コをひねり出した感」が非常によく出ているのはそのせいでしたか。笑)。


黒坂さんと水江さんは今回のオタワ行きの飛行機で一緒になったのが初対面だったようで、飛行機の中でも実制作ができる水江さんに感心してました。黒坂さんは仕事場でないと描けないらしく、それ以外の場所では気分転換のフリードローイングばかりだと。でも、描いた絵を見ると「これはいついつに、どこのレストランで描いたもので、そのとき食べた料理の味はどうだった」など気分や情景まで全て思い出せて絵日記代わりになると言うので、「それはいいですね。黒坂さんにしか読めない絵日記だから、何を書いても他の人にはバレない。むかつくことがあったときに描いた絵とかも、他の人にはわからないけど黒坂さんには全部わかっちゃうわけですね」と訊くと、「某所で某人から嫌な目にあったときは、悔しくて悔しくてウチに帰ってきてから「こんにゃろう、ちくしょう、こうしてやる!」とか言いながら描いたこともあります」といたずらっ子みたいな表情で語ってました(ほんとはどこで誰に言われたのかポロッと喋っちゃったんですけど、はたと気がついて言い直してました。笑)。ちなみに、黒坂さんがフリードローイングをする場合、なるべく左脳はからっぽに、手のおもむくままに右脳だけで描いてゆくので、出来上がった絵のほとんどは抽象画なんだけれども、構想中の作品に出てくるキャラクターの性格に合った姿が絵の中に見えてきた時はそこからちゃんとしたキャラクターに仕上げてゆくこともよくあるそうです。


水江さんにも気分転換の方法を尋ねると、細胞をモチーフにしたアニメーションの他に、直方体をモチーフにした作品も作っているので、それを交互に制作することで一方が他方の気分転換になっているとのこと。


水江さんが「映画に出てくる人たちは皆ミドリに一方的にコミュニケーションをとってくる人ばかりだけど、それが嫌な感じではない」と語ると、「ミドリはあの世界の中で唯一人自分だけはまともだと思ってるが、自由ではない」と語る黒坂さん。『緑子』に登場する人物には90%実在するモデルがおり、ひとりひとりにかなりきちんとした裏設定があるということで、例えば、「山本さん」というおじいちゃんと半魚人のご夫婦。黒坂さんが「人魚の夫婦」と紹介したので、「人魚? 半魚人でなくて?」とゲストの二人も私の頭の中も「?」マークだらけになってたら、「上半身がサカナで身体が人間の奥さんと、上半身が人間で下半身がサカナのおじいちゃん」と説明され、ようやく納得。この夫婦、全身が見えるアングルのときは大概絡み合ってるので、サカナの尾っぽはおじいちゃんではなく奥さんのものに見えるんです(でもそう言われて改めて確認すると確かに魚の尾っぽはおじいちゃんについてるので、先入観って怖い。汗)。黒坂設定によると、奥さんはデンマーク人で(場内から笑いが)、人魚の研究をしていた山本さん(=おじいちゃん)が人魚伝説の残るデンマークに行ったときに知り合い結婚したんだそうです(「だからデンマーク人なのね」と皆納得)。尚、このおじいちゃん、(過激すぎるからと18禁扱いにされテレビ放映時にモザイクかけられたことで有名な)「Dir en greyのPVに出てくるおじいちゃんと同じ人ですよね」と指摘すると、黒坂監督のお祖父ちゃんがモデルなんだと教えてくれました。「子供の時、すごくお祖父ちゃん子だったので、たびたび自分の作品に登場させてしまう」と語る黒坂監督でしたが、大好きなお祖父ちゃんを作品内でずいぶんと酷い目にあわせてることにはたと気がつき苦笑いしてる姿が可愛らしかったです。

↑件のPVでは下半身が芋虫の、人魚ならぬ人虫にされてる黒坂監督のお祖父ちゃん。しかも(おそらく黒坂監督の娘さんをモデルに描かれてるであろう)幼女に踏みつけられたり股裂かれたり…(苦笑)。


この他にも、ミドリはいま大学院で研究中で、30歳近いのにいまだドクターになれず後が無い状態という裏設定があったり(だから研究データの入ったパソコンを緑子に壊されたときあんなに落ち込んでたのか)、アパートの住人がジャンケンしてキスしあってるシーンについて「あれは何をやってる場面なんですか?」と問いただしてみると、あの二人は夫婦なんだと言われ会場から「夫婦だったのかよ!」的な笑いがもれたり、「トイレにいたあのロボットはなんなんですか? 緑子を守っていたけど、科学者たちの仲間ですか?」と問えば「あれは“トイレの神様”です」「え? トイレの神様?」「歌であったじゃないですか、『トイレの神様』って。アレです」「そんな時事ネタも取り入れるんですか!?」と驚かせたり(ちなみにロボットの姿は子供の時に初めて買ってもらったおもちゃのロボットを思い出して描いたそうです)。尚、企画当初は「緑子が探偵、ミドリがその助手」という設定だったそうで、初期の設定画が1階ギャラリーに展示してあるので帰りに見ていってくださいとのことでした。とまあ、こんな風に次から次へと映画を見ただけでは分からない(笑)驚きの設定が出てくるので「DVDが出るときは必ず設定集をつけてください」とゲストからお願いされる黒坂監督でした(同感です。黒坂さんは喋りの間が面白いのでオーディオコメンタリーで自ら解説くれると尚良し)。


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トーク終了後に配給会社のスタッフさんが教えてくれたエピソードによると、先日新聞の取材があって共に黒坂家におじゃましたとき、ちょうど緑子のモデルになった娘さん*1が帰宅されたところで、「ヘチマもらってきたー」と差し出した手に握られてたヘチマのフォルムが緑子にソックリだったのでとても驚いたそうです(それは是非写真にとってきてもらいたかった。笑)。



映画「緑子/MIDORI-KO」公式サイト | 公式ツイッター


今後の上映スケジュールは以下の通りです(10/29(土)以降の上映は未定)。

上映館:渋谷アップリンクX(劇場はビル2Fですが、チケット受付は1Fになります)
上映時間:〜10/21(金) 17:00/21:00 10/22(土)〜 19:45 
     ※10/24(月)・10/26(水)・10/27(木)は、15:00の回もあり
料金:一般1,400円/学生・シニア・リピーター1,000円


10/19(水)21:00の回終了後トークショー
ゲスト(予定):石田尚志(画家/映像作家)×黒坂圭太監督

黒坂監督はもともと油絵をやってた人なので、またひと味違った面白いトークショーになりそうです。1Fギャラリーの方は残念ながら既に終了しております。


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*1:娘さんが乳児期にタオルにくるまれてた姿が緑子のモデルになってるそうです。