観客の中で完成する映画

年末在庫一掃セールにはまだ早いですが、パソコンの中を整理してたら最後まで書き終わらず蔵入りになってた文章が出てきたので上げておきます。2009年の公開時に書いたものをほぼそのまま上げてるので若干テンション高め且つ尻切れトンボな文章になってますが(汗)、『マイマイ新子と千年の魔法』という映画に嵌った一番の理由なのでちゃんと書き残しておきたいという欲望と、リンク張った「講義レポート」がほんとに面白いので紹介したいという二つの理由により、今更ながらあげておきます。


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ブログを始めて今年で7年目に入るのですが、その間、何度かアニメ映画にお熱をあげたことがありまして、最初は2004年公開の『マインドゲーム』、次が2006年にリバイバル上映された『哀しみのベラドンナ』、そして現在公開中の『マイマイ新子と千年の魔法』と定期的にきてるわけですが、アニメ映画『銀河鉄道の夜』『あらしのあとに』でおなじみ杉井ギサブロー監督が、若かりし頃に作画監督を務めた虫プロアニメ『哀しみのベラドンナ』スタッフ座談会(2006年に発売されたDVDに収録済)で次のようなことを語っていたんですね。『ベラドンナ』がリバイバル公開されたときにギサブロー発言集という形で一度掲載しましたが、あらためてご紹介しておきます。

日本での普通、映画の鑑賞の仕方っていうのは、特に最近どんどんどんどんそうなってきてるんだけど、映画が全て自分に向かっていて全ての情報を映画の方から与えてくれるっていう誤解があると思うんだよね。でもボクは、映画っていうのは観客が観たときに脳裏の中で自分の経験とか人生と絡めて一つにしてゆく作業っていうのがあって初めて成立するもので、やっぱテレビなんかが出てしまったんでね、映画が持ってる【映画原語】ていうのかな。だから映画っていうのは、もちろん【作品】としては完成するんだけれども、【映画】って形で完成するのは“観客込み”なんだよね。映画はある程度観客に向かって情報の素材を提供してゆく。それを観客が頭の中で自分の経験と絡みあわせたところで全く残らない形で映画館の中でまた作品を作り直せるっていうね。その辺を狙っていく映画を作りたいなと思って。(-中略-)アニメーションという技法そのものはそういうものを作れる可能性を持っていると思うんだよね。

こうやってギサブローさんが何十年もの長きにわたり言い続けてきたことを見事にやってのけたのが『マイマイ新子と千年の魔法』という作品だったんです。それもかなり意識的に。


2009年12月26日(土)に行われたアニメーション講座で、『マイマイ新子〜』を撮った片渕須直監督自らその秘密を明かしてくれてるのでご紹介。


マイマイ新子と千年の魔法」の片渕須直監督、講義レポート・・・映画が観客に与える「印象」の力(1)
http://d.hatena.ne.jp/makaronisan/20091228/1261941566
マイマイ新子と千年の魔法」の片渕須直監督、講義レポート・・・映画は観客の中で完成する(2)
http://d.hatena.ne.jp/makaronisan/20091230/1262107029



私が『マイマイ新子〜』を観てイチバン驚いたのは「ドラマチックな展開などなくても、人の営みをただ丁寧に描く、それだけでこんなにも深く感動させられてしまうものなんだ」ということでした。しかもその感動が尋常じゃないぐらいに深く、いったん泣きスイッチが入ると、気を抜くたびに理由もなく感情がこみあげてまた泣きそうになってるし、理性によるコントロールから外れたところで心と作品が勝手にやりとりしあっているこの状態はいったいなんなのかと。しかも自分だけじゃなく、この作品を観た何人もの人が同じような状況に陥ってる。ということは作品の中にそういった現象を起こす何かが隠されているということになるわけで、いままで感動的な映画なんてたくさんあったけど、こんな訳のわからない状態になったのは初めてだぞ、人をないがしろにするのもたいがいにせいや!と私の中のゴーストをどつき回したい気分に追いやられながら、「そもそも“泣く”っていうのはどういう生理現象なのか」「嬉しいから、悲しいから、寂しいから、悔しいから、以外にどういう状態になると人は泣くのか」「感動するってそもそもどういうことなのか」「そのメカニズムは?」「もしかしたら本来、ヒトは何を見ても感動するようにできてるんじゃないか」なんてことをぐるぐるぐるぐる考えていたら、「いや、むしろドラマツルギーが確立したおかげで、いつのまにかドラマチックな展開を楽しむことそのものが映画を楽しむ上での主軸になってしまい、そこから逸脱する個々の感情、ささやかな感動を無駄なものとして排除・抑制してきていたのではないか」ということにショックを受けたのでした。



マイマイ新子と千年の魔法 [DVD]

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関連:
『悔し涙』は、特にしょっぱいって本当ですか?(@秋葉原さんのブログ)
※涙はどこでどうやって作られ、どういったときに流れるのか、その仕組みについてわかりやすく説明してくれてます。


関連する過去記事:
映画「マインドゲーム MIND GAME」関連 | 映画「哀しみのベラドンナ」関連 | 映画「マイマイ新子と千年の魔法」関連

マインド・ゲーム [DVD]

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哀しみのベラドンナ [DVD]

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