『バチアタリ暴力人間』『暴力人間』を観た(@渋谷UPLINK FACTORY)

渋谷のUPLINK FACTORYで3日間限定上映されてた白石晃士・笠井暁大の共同監督・主演映画『バチアタリ暴力人間』を、両監督によって97年に撮られた自主映画『暴力人間』と二本立てで観てきました(後者は再見)。『バチアタリ〜』は現在DVDが発売中。

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映画の内容は以前の日記を参照。


12年の時を経てリメイクされた『バチアタリ暴力人間』は、20代のアマチュア時代に撮ったオリジナル『暴力人間』に比べると、出演者が大人になった分、観客を楽しませようという気分が随所に見え隠れし、オリジナルにあったマジもんの怖さや青臭さみたいなのは薄れてたかな。リメイクというよりはパロディっぽい雰囲気。その分エンタメ性というか悪ノリもエスカレートし笑いの要素は比べものにならないくらいパワーアップ。大勢で一緒にゲラゲラ笑いながら観るのが絶対的に正しい作品に仕上がってるので、友だちの家にお泊まりに行く予定の皆さんは手土産に持ってくと素敵な夜が過ごせると思います(笑)。


「意外とこの二本立てはナシかも…」と思ったのは、オリジナルにあった暴力性を求めて『バチアタリ』を観るとリアルさという点で物足らず、『バチアタリ』に続けてオリジナルを観ると笑いの部分が物足りなく感じるので、記憶鮮明なうちに両者を見比べるのはお互いにとってよくないと思った。


リメイクにあたり“心霊モノ”という新しい要素が加わった『バチアタリ』は、新作を撮るためとある霊能者が行う集団お祓いを撮影しに行った心霊ビデオ監督・白石コージ(本人)が、たまたま参加していた笠井・山本のマジキチ2人組に撮影をめちゃくちゃにされ、「おまえの撮る心霊モノはつまらんので俺ら主演で撮れ」とムリヤリ引きずり回されるうちに徐々に彼らとの撮影に面白味を見いだしてゆくというストーリー。DQNだけあって「心霊ビデオはたくさん見てる」という設定がなにげにリアル。実生活で心霊ビデオを何本も撮ってきた白石監督だけに、現場のハプニングを逆手にとって恐怖映像に変換させる手腕はさすがで、ネタバラし的ヒヤヒヤ感も加わり「ああ、これは『ほん呪』をピュアな気持ちで楽しんでる中高生には見せられない」と思いながら爆笑しました。「ぼうりょーく(ぼうりょーく)、にんげーん(にんげーん)♪」という一度聴いたら耳にこびりついて離れない主題歌は職場で無意識に口ずさんでることがありとてもキケン。


オリジナルから引き続き出演してる“暴力人間・笠井”の新しい相棒として抜擢されたのは怪優・山本剛史。“霊感がある”という設定に『めちゃ怖3』での胡散臭い霊能力者ぶりが重なり更なる苦笑が生まれることに(笑)。引退した長澤つぐみちゃんが彼女にしては珍しく勝ち気な九州女を演じてたのが新鮮でとても良かった(もっとこういう役で見てみたかったなあ…)。白石監督の『オカルト』に主演した宇野祥平さんもちょこっと出演しており、ものすごくハードなシーンでいままで見たことないぐらいのにこやかな笑顔を浮かべつつ男の尊厳を奪ってゆくんだけど、これまで演じてきた役柄が役柄なだけにその笑顔の裏に得体の知れない深い闇を垣間見てしまい、社会に追い詰められた人間が強者の立場に立ったときの冷徹さにゾッとしました。いや、本人はそんなつもりなかったでしょうけど、役者についたイメージでそう見えるというか、顔のアップや台詞がないせいもあって、“霊能者の弟子”というキャラクターより様々な作品に出演しては格差社会の闇をつないでる“宇野祥平”感の方が勝ってしまい、あの笑顔の中に役を越えた感情が思わず出ちゃったように見えるんだよね。それがとても怖かった。


オリジナルにもあったこの場面、新作では異なる展開を見せ「おっ!」と思わず身を乗り出すものの、クライマックスに至るまでの心理描写が不足がちでつなぎが少々強引になってしまったのは残念。ただし、今回割と脇に置かれがちだったスタッフが、最後の最後にああいう形で加わってくれたのはとても嬉しかった。元の『暴力人間』を初めて観たとき「撮影スタッフ」と「白石カントク」との関係描写がとても好きだったんだよね。なんつーか、劇中の白石カントクは作品を撮ることに夢中でスタッフをないがしろにしすぎなんですよ。俺がやろうって言い出した俺の作品かもしれないけれど、付き合うからにはスタッフにだってそれなりの想いがあるわけで、そのあたりの気持ちのズレが学生時代の文化祭準備を思い出しスタッフの面々に肩入れしながら観てた身としては、リメイクで更なる関係に進んでくれたのは嬉しかった(ちなみにオリジナルでは、撮影の坂井クン(?)が男の人にムリヤリ穴童貞を奪われた後、引き留める白石カントクを完全に突き放す電車のシーンが大好きです)。


マジキチ人間が出る心霊ビデオと聞いて思い出すのが『ノロイエ』と『女呪霊』。前者は心霊ビデオの制作プロデューサーがテレビ局相手に行うクレーマーっぷりがガチ過ぎてむかつき、後者はアダルトビデオ業界人の腐れ発言が心底腹立つ心霊ビデオだった。マジキチ人間の描写に突出した才能を見せるこの二作を輩出したクリエイティブアクザが、心霊ビデオとアダルトビデオ、それぞれの業界に身を置く白石・笠井両監督に『バチアタリ暴力人間』を再び撮らせるというのは系譜的に見ても非常に正しい。当初は某元首相が某宗教団体に戦いを挑む話にするつもりだったそうだけど、それが叶わなかったのは某宗教団体からの圧力でも予算の都合でもなく“クリエイティブアクザの呪い”だと思う。ちなみにOVホラー『ノロイエ』は映画『ノロイ』(白石晃士監督)公開時に販売された便乗タイトル。幽霊の出る呪われた家が題材だったこともあり、『バチアタリ』で不動産屋が出てきたときはおもわず「『ノロイエ』オマージュか!」と突っ込みそうになった。尚、未見の方は『ノロイエ』→『女呪霊』の順で見ると楽しさ倍増です。
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その後のトークショーでは、笠井監督が久しぶりに自主映画を撮る気になったことや、白石監督がもう一回『暴力人間』をリメイクする構想があることを明かしてました(「今度は1日で撮る予定」とのこと。1日って…どういうこと?)。



しかしギックリ首がまだ治りきってないせいか、アップリンクの椅子に4時間ぶっつづけはきつかった…。うちに着くまで首がもたないと思い、トーク終了後ダッシュで駅に向かいなんとか座れる電車に間に合ったけど、夏休みも終わりこれからまた夜の電車が混み出すのでレイトショーは憂鬱。しばらくロフトプラスワン関係は無理そうだなあ。



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せっかくなので、山本剛史出演記念に昨年6月に行われた『めちゃ怖』オールナイトのトークを一部ご紹介しておきます。なんで一部なのかというと、記憶があいまいで当時一部しか書き起こせなかったからです(故に長いこと蔵入りにしてました)。

山下敦弘の「めちゃ怖」ナイト』@テアトル新宿
トークイベント3〜シークレットゲストトーク
ゲスト:山下敦弘監督、山本剛史(vol3出演:霊能力者・出口平源)、奥村勲(vol.1出演:カイワレさん)


「上映後に監督による舞台挨拶があります」としかアナウンスされてなかったのですが、舞台上には何故かイスが三脚置かれ、監督登場後、シークレットゲストとして「めちゃ怖 vol.3 霊能力を持つ男」に出演した俳優の山本剛史さんと奥村勲さんが呼ばれました。ほんのり赤ら顔でどうみても酔っぱらいの山本さんが酔いに任せて大暴走。ほぼオンステージ状態で、作品の感想を求められても「全く怖くない!」「こんなのは茶番だ!」と身も蓋もないダメだしをマジモードで繰り返し、撮影時の感想を求められれば、「いつも簡単なプロットしか渡されない」「真っ暗闇の湖に15分もひとりぼっちで待たされて怖かった」とここぞとばかりに監督を責め立て、あげくのはてに「暴走してごめん。綾波レイだから」と意味不明なことを口走り、爆笑し過ぎて涙が止まらなかったです。


めちゃ怖 3 [DVD]

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