『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』音響調整見学会レポート(@立川シネマ・ツー)

緊急告知ふたたび!(2011/06/11)
また今年も命日にあわせ立川シネマシティ(別館シネマツー aスタジオ)で「THIS IS IT」のライヴスタイル上映が開催されることになりました。今度は「ムーンウォーカー」まで。期間は2011年6月18日〜6月26日まで。詳しくは↓こちらを参照されたし(会員先行予約あり)。

マイケル・ジャクソン メモリアルウィーク(「THIS IS IT」「ムーンウォーカー」ライヴスタイル上映)特設ページ


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緊急告知!
好評につき、立川シネマシティ(新館シネマツー)でのスタンディング追加公演が決定しました。日時は7/10,11,16の3回。詳しくは特設ページを参照されたし!


マイケル・ジャクソンが亡くなって早一年。上映後も配給元に届き続けたファンからの上映リクエストに応える形で、彼の命日(6月26日)を目前に控えた今週末6/19(土)より各地でマイケル・ジャクソン THIS IS ITの再再上映がスタートします。
『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』アンコール上映決定のお知らせ(@ソニーピクチャーズ)
(※関係ないですけど、たまたま見つけてなつかしくなったのでこちらもご紹介。亡くなった翌日に宇多丸さんの番組に西寺郷太さんが緊急出演。マイケルへの想いを語った回です。)


前回独自の音響調整によりMJファンからお墨付きをいただいた“私のいきつけのシネコン”こと、東京・立川市にある独立系シネコン立川シネマシティでもこの再々上映に向け三度音響調整を行うことになり、一般から広く見学レポーターを募集。私もスタッフの方からお誘いいただき、去る6/12(土)、立川シネマシティの新館シネマ・ツーのaスタジオ(400席)に赴き、MJファンにまじって夜11時より夜通し行われた音響調整見学会に参加してきました。


これがもう凄かった!


特設ページにリポートがいくつかあがってるので、まずはそちらでマイケルファンによる熱いリポートを読むのが一番てっとり早いかと思います。
3rd STAGE『THIS IS IT』“THE EXPERIENCE”特設ページ(@立川シネマシティ)
音響調整現場リポート集(2010.6.12 at 立川シネマツー aスタジオ)
なんで急いでるかというと、6/19(土)、25(金)、26(土)夜20時の回はライブハウス並の大音量によるスタンディング上映が行われるんですよ。これがもうスタジアムにいるような錯覚を受けるぐらいの熱気と大音量で、最後に流れる「マン・イン・ザ・ミラー」の多幸感たるや…なんて余韻に浸ってる場合じゃなかった(汗)。6/19の座席予約は既に木曜深夜0時より開始しており、残席わずかになってます! 行かれる方は早めに予約されたし。
6/19(土)の予約状況(@立川シネマツー)
(※ただしネットで販売してるのは全体の7割だとか。完売表示が出ていても劇場に行けばまだ席が余ってる可能性があるので問い合わせてみてください)



重要事項は伝え終わったのでここからはのんびりレポしたいと思います。


昔からこの劇場は支配人が音響マニアなのかなんなのか音響に関して強いこだわりがあり、旧館にいち早くTHXを導入したときも自前のスタッフで音響調整を行い厳しい審査をパスするなどスタッフの技術アップにも余念がありませんでした。2004年、「そんなおっきな劇場建てちゃってお客さん入らなかったらどうすんの?」という常連客の心配をよそに、近隣地域のシネコン乱立に対抗するべく更なる高みを目指して建設されたのが今回見学会の行われた新館シネマ・ツーでした。
立川シネマ・ツー 館内リポート


今回『THIS IS IT』の音響調整を担当したのは、表参道ヒルズの音響デザインをはじめ“音場創生”の総合プロデュースを手がけるサウンド・スペース・コンポーザーの第一人者、井出祐昭*1。シネマ・ツー建設に設計段階から関わってるいわば「シネマツーのことなら俺に聞け!」的な立ち位置にある人。先日も、『THIS IS IT』ファーストランの頃からタッグを組んでる音響エンジニアの増旭氏と共に、塚本晋也監督立ち会いのもと『鉄男 THE BULLET MAN』の音響調整を行い、《爆音》を越えた《爆圧“BULLET SOUND”体感》上映を実現。空気がしびれ椅子が揺れるほどの大音量にもかかわらず、低音から高音まですべての音がクリアに響き、台詞もしっかり聞き取れる鑑賞状況を成立させてくれました。


THIS IS IT』の音響調整は、昨年10月のファーストラン、12月のセカンドランにつづき今回で3度目。既にBD/DVD発売済みのタイトルだけに、前回マイケルファンからお墨付きをいただいた立川シネマシティとしては、三たび挑戦でマイケルの声がもつ熱量、愛のエネルギーの更なる増幅を試み、変わりゆく課程をファンに共有してもらうことで“新宿から電車で30分、往復900円”という立地の悪さを情熱で克服しようとしたのが今回のイベントということになります。


集合時間は夜の11時。シネマツー1Fのaスタジオロビーに集合。当初「応募多数の場合は10数名に絞り…」という話でしたが、劇場に着いてみれば、マスコミ関係者も含め5,60人の大所帯。担当スタッフの説明によると熱い応募メールが届きすぎて参加者を30数名に増やしたそうです。


まずはロビーにて本日の流れを簡単に説明。オールナイトになるため、飲み物とちょっとした軽食・おつまみ(シネマシティ1Fにあるイタリアンレストラン「MOTHERS」さん提供)が用意されてました。注意事項がいろいろと言い渡されたのですが、注意らしい注意は「途中で帰るときはスタッフに一声かけてください」ぐらいで、音響調整中の写真撮影、つぶやき、ネット中継全然OK(ただし著作権の問題があるので音声と画面は流さないように)、歌ったり踊ったりも存分にどうぞ、トイレも自由に行ってください、飲み食いOK(人数が増えたため、給仕はセルフサービス)、持ち込みもどうぞと、「あれもして良い、これもして良い」という推奨事項の説明に終始してました。


ぞろぞろとaスタジオに入り、皆、おもいおもいの席に着席。スクリーン前に井出さんが登場し、“kicリアルサウンド”と名付けられたこの劇場独自の音響システムと今回の調整でどんなことを試みるつもりかといったことがレクチャーされます(チューニングは今回も音響エンジニアの増旭氏が担当)。

↑前回上映時にUPされたこちらの動画でも説明されてるのですが、この映画館の一番の特徴は劇場内の吸音構造にあります。通常の映画館では、スピーカーから出た音を壁や絨毯に吸音させることで反響音を極力無くしスピーカーの音を跳ね返りなく直接耳に届けるよう設計されてますが、シネマツーは「劇場でありながら、実際に作られた音響スタジオ内の音をできるだけ忠実に再現する」というコンセプトのもと設計・建築された劇場なので、床や壁(スクリーン裏・天井は除く)には吸音材を貼らず、壁に傾斜をつけ反射した音をすべて天井で吸音。閉塞感の少ない自然な反響音の生成を試みているとのこと。

スピーカーには個別にパワーアンプを付け、一見小さく見えるサラウンドもフロントして使えるだけの性能を持ち合わせているそうです。スピーカーは、通常の映画用ではなく、米国メイヤー社製*2の大規模コンサート用を使用し、通常スクリーンの後ろに隠れてるフロントスピーカーをセンター以外むき出しに設置してるのは、台詞をよりクリアに、低音から高音まで明瞭な音をダイレクトに届けるためだとか。
 
また、音響スタジオにあるようなPAシステムを導入し、箱の特性によって変わる音の鳴り方にも細やかに対応。高い部分を抑えてくる映画特有のチューニングを克服し、マイケルのような伸びやかな高音もクリアに再現、且つ、コンサート並の爆音上映も良質な音響のまま提供可能となったそうです(ジェット機の直下にいるぐらいの音量を瞬間的に出すこともできるとのこと)。
(追記:「映写室からのつぶやき」さんも参加されてたようで、プロの目から見た技術面でのより詳しい解説を読むことが出来ます。吸音材を極力排した理由について、井出さんが「吸音材は音の高さによって吸音しやすい/しにくい音がありムラが出るため」という説明をしていたのですが、それについての詳しい解説もされてます。)


そんなところで、まずは何も調整を加えてないオリジナル版と、二度目に行った再調整版(いわゆる“INVINCIBLE SOUND”と銘打ってたヤツです)を聞き比べ(時間の都合により一度目の調整版は割愛)。冒頭からツアー発表記者会見までの10分程度のシーンです。


このオリジナル音源なんですが、素人が聞いても残念なぐらい音のバランスが悪い。ベースとドラムが前面に出すぎで、かつ同じ距離にフラットに並べられてるといった状態で奥行きがない。肝心のマイケルの声は低音の壁の向こうにあり、マイケルの歌声よりリズム隊をメインに聴いてほしいんじゃないかと思えるほど。全体的に音がこもり気味でもわっとしており*3、爆音気味でかけると高音が割れて会話シーンですら耳に痛い。


フィルムを巻き戻してる間、質疑応答で場つなぎ。井出さんも初めてこのオリジナル音源を聴いたとき「ヒヤッとした(汗)」そうです。このままではちょっと流せないということで、ファーストランでは出過ぎた低音を抑えることでマイケルの声を前に出し、全体のバランスを良くして音の粒を立たせることに。『THIS IS IT』はプライベートで録ってたリハーサル風景を無理矢理劇場映画として公開してることもあり「オリジナル音源を作った音響スタッフが相当苦労してるのが伺える」とのこと。ただ、音の割り振りをみると、臨場感を出すためのサラウンドではなくやはり音楽的なサラウンドがなされているため、なんとかその音を引き出すべく調整。セカンドランでふたたび招聘された時は、マイケルの声がもつ透明感を更に際立たせたることを目標に再調整したそうです。


巻き戻しが終わり“INVINCIBLE SOUND”と名付けたセカンドラン調整版を聴かせてもらうと、これはもう冒頭に流れる企業ロゴの時点で「おお!」と感嘆の声がもれるぐらい全然別物でした。なんていうかキラキラしてるんですよ、音が。荒っぽさが抜け、低音から高音まですべての音がバランス良く配分されており、粒の立った心地いい音響に「劇場の調整だけでこんなに変わるのか」と思わず笑ってしまいました。


その後また巻き戻してる間に質疑応答。そしていよいよサードランに向けた本格調整に入ります。


今回の見学会の最大の醍醐味は、なんといっても“上映中の席移動OK。むしろ積極的に推奨”という点でした。調整中は場所による聞こえ具合の違いを聞き比べるためスタッフがあちこち歩き回るので「皆さんも最低3回は席を変えて聞こえ具合の違いを積極的に体感してください」とのお達しが。言われるがままに、前へ後ろへ、左へ右へ、立ち尽くす人有り、踊る人ありの中で調整作業が進みました。席移動OKなんで普段座らないような席も初体験で楽しみまくりました。


イベント終了後、井出さんはモテモテだったので、日常の音響調整を担当してる劇場スタッフの方に先ほどのオリジナル音源に対する違和感をぶつけてみました。音の抜けが良いのが特徴のシネマツーにしては、普段私がこのaスタジオで観てる他の映画と比べてもこのオリジナル版は極端に音がこもってるのはどうしてなのかと訊ねてみると、もともとaスタジオ自体に音がこもりやすいという特徴があるとのこと(つまりオリジナル版を何も調整しないまま流すとaスタジオの特徴がそのまま音に出てしまうということのようです)。実はシネマシティが持つ11スクリーンどれひとつとっても同じ施設はなく、オリジナル音源をそのままかけても施設によって音の響き方が変わってしまう。だからこそ施設の特徴にあわせた個別の音響調整が重要になってくるんだそうで、なかなか奥の深い話です。スタジオで作って良いと思った音も、劇場でかける時点で再現する環境(建物の構造、使ってる機材等)がスタジオのそれとは異なるのだから、劇場でかかる音が本来の音と別物になってしまうのは致し方ない。それをどこまで制作者の意図したであろう音に近づけるかが音響担当者に課せられた課題ってことですかね。



*1:WOWOWが見られる人は6/28(月)放送の「ノンフィクションW 幸福音〜知られざる『音』の世界」で特集されてるので見てみてください。

*2:ちなみに『鉄男 THE BULLET MAN』上映時に「スクリーンから風が吹く」とまで言われたサブウーファーですが、開発したジョン・メイヤー氏のインタビューによれば、映画『地獄の黙示録』のサウンドプロジェクトに関わった際、ナパ−ム弾の爆発音や戦闘シ−ンをコッポラの要求にあわせ通常の倍の音量でも忠実にディテール豊かに再現するために開発されたスピーカーだそうです。そんなこと言われたらいつの日かここで『地獄の黙示録』を爆音上映させたくなるじゃないですか(笑)。

*3:普段音響調整を担当してる劇場スタッフに確認したところ、劇場自体の特性も影響してるそうで、今回は調整前の素の状態なので箱の影響がもろに出てるんじゃないかとのこと。こういうと「aスタジオは音がもやっとしてるのか」と思う方もいるかもしれないが逆です。普段は高音の抜けがとても良い箱。だから不思議に思って確認したのです。劇場音響というのはなかなかに奥が深い。