CX『ボクらの時代』トーク、香川照之×小泉今日子×本木雅弘【前編】

65年12月生まれの本木雅弘香川照之と66年2月生まれの小泉今日子という同い年3人によるトーク。モックンと香川さんは来年放映のNHKドラマ『坂の上の雲』、キョンキョンと香川さんは映画『トウキョウソナタ』で初共演という間柄。今回のメンツを考えたのはキョンキョンということで、特に同期アイドル二人のやりとりは付き合いの長さが垣間見える感じで非常に面白かったです。そんな中でも「へえ、そうなんだあ」と思うような興味深い発言、俳優論がいくつかあったので、HDDから消す前に書き留めておきたいと思います。

本木のしきりで進むトーク。男性陣から「あなたは肝が据わってる」という話を振られた小泉が自分の意外に臆病な面をひとしきり話した後、、、
本木「じゃあ、香川さんの方を進めますか? そろそろ」
小泉・香川「(笑いながら)いやいやいやいやいや」
小泉「こっち(本木)いきます」
香川「まず本木さんの方から」
本木「(恥ずかしそうに苦笑い)」
香川「・・・とか言いながらね、この方はですよ、とりあえず自分が『弱い』とか」
本木「(おもむろにお茶を飲み出す)」
香川「『迷ってる』とか、なんだかんだ言い出すんです」
小泉「すごくネガティブなこと言うんだよねー」
本木「それがないと生きていけないんだもん、ホントに。恥ずかしくて。近くで関わってる人には大変申し訳ないけど(笑う小泉)、ほんとに特技は、自虐、自滅、自己嫌悪
小泉「(大爆笑)」
香川「でました(笑)」
本木「自虐、自滅、自己嫌悪、そのサイクルを毎回毎回繰り返してるの」
小泉「(香川さんに向かって)でもそれ若い頃からそうなの」
香川「やっぱそうなの。僕もさ、『オッケー!』て出るじゃない、僕はこの1年のつきあい・・・もちろん十何年前にも映画で1本ご一緒させてもらってそんときはあんまわかんなかったんだけど、『オッケー!』って出た後の自己嫌悪の時間がとりあえず30分ぐらいある、みたいな。自己嫌悪される時間が
本木「(恥ずかしそうに苦笑い)」
香川「一番可笑しかったのが、『笑い顔を撮りまーす!』って言って、本木さんのワンショットで笑い顔を撮って、『じゃあ笑ってください。ハイ! よーい、スタート!』って言ったら、本木さんは(快活な笑顔で)『ウッハッハッハハハハア!』って笑うわけ。で、『カット!』ってかかった瞬間に(落ち込んだ様子で頭を垂れて)『あ〜〜〜だめだいまのじゃあ〜〜』って
小泉「(大爆笑)」
香川「(本木を指さしながら)全然違うもんだって!」
本木「(あたふたする)」
香川「『だいじょうぶ、だいじょうぶ! 笑ってたよ! すごく心から笑ってたよ!』って言うんだけど(ものすごく落ち込んだ様子で)『だめだいまのじゃあ〜、だめだ〜。スイマセン、監督。もう1回お願いします』『あ、そうですか。わかりました。じゃあもう1回いきましょう。よーい、スタート!』『(快活な笑顔で)アハッハッハハハハア!』ってまた始めるわけ。もうこの人はパラノイアって思ったもんねえ」
本木「いまだにわかんないんだけどさ、こういう俳優の仕事って、いわば虚構な訳じゃない? そのお芝居、その気持ちになるようなつもりでさ、なんかその役に同化出来た瞬間がね、自分にも感じられればいいけれど、そうじゃないのがほとんどじゃない?」
小泉「ああー」
香川「ほんとそうだね」
本木「そういう風になんとか追いつこうとして演じてるっていう歯がゆい自分を俯瞰してる自分がいつもいて、だからなんか、お前ソレ心から笑ってねえなあとか、自分で自分につっこんじゃってるわけ」
小泉「ええーっ」
香川「自分を見張る警察力が強すぎるんだよ、ほんとに。」
小泉「そうだねー。(本木の顔をバシッと見ながら)どうにかしたいよね。(頭の上から俯瞰してる)ここの人を」
本木「抹殺したいけど、抹殺できない」
小泉「でもそれが本木さんの魅力だし」
香川「たとえば映ってるときさ、俺凄く印象に残ってるんだけど、映画『しこふんじゃった』でさ、六平さんがグダグダグダグダ言ってさ、『解散だー!』なんて言ってる時にさ、最後にぶち切れて『やってるやってるやってるやってりゃいいんだろ!』て言うとこあるじゃない? もう俺あれすっごい好きなのね! で、すごく一時期、俳優があそこまでテンションあげる気持ちになるっていうのがたぶん正解なんだって、すごく目標にしてたカットのひとつなんだよ。あれすげえ!って思ったわけ。あのときのエネルギーっていうか。それで、今回お会いしたら『だめだだめだだめだー』ってやってるから、この人とあの人は別人なの?!って思うぐらいさ」
本木「まあ、そういう意味で私はとにかくー、いつもー、自分でもわからなくなってしまい、いろんな様々な矛盾を抱えて、かつでもその矛盾がないと、そこに立っていられないというね」
香川「でもそれは俳優は全員あるよね」
小泉「あたしはあんまりないけど、香川さんにも感じる」
香川「男はあるよね。男は絶対ある」
小泉「うん!」
本木「香川さんはね、それを踏まえた上でポジティブにもう一歩先を行くというか」
香川「そうだね。それを積み上げていこうとはしたね。この何年も」
本木「でやっぱりどんな物語も最終的に平たくいえばちょっとこう希望が見えないものは誰も見たくないないわけじゃない?」
小泉・香川「うんうん」
本木「そういうところを肌で知ってるのか、幼少の頃相当ツライ思いをしたのかー(笑)」
香川「そうそう。ホントにツライ思いでね(笑)。いや俺もさ、やっぱこう常に第三者がいるわけ、やっぱり。すっごい内向的だったからさ。わーーー!って(はしゃぐと)いうことも全然なくて、なんか見てもこれは違うなとかこれは合ってるなとかいうのをずーっと内向的に内向的に溜め込んでたの」
小泉「溜め込んでた感じはある」
香川「ものすごい溜め込んでたのよ」
小泉「結構それがなんかこう薄暗闇だけじゃなくてホントの暗闇までいって戻ってきた感じがする」
香川「ああー」
小泉「人のせいにしてない感じがする」
香川「ああーわかったわかった。そうだねー」
本木「そう! チューニングが上手なの」


香川「レコードってまだ持ってたりするの? 自分の?」
小泉「わたし持ってない・・・」
本木「私も、ごめんなさい。自分のものってあんまり残してない」
小泉「わたしもほとんど残ってない」
香川「(いきなり声が小さくなり)台本とかってどうするの?」
小泉「のこさない・・・」
香川「俺ものこさないんだけど・・・」
本木「その回が終わったってなると捨てる」
小泉「わたしも捨てる」
本木「・・・ってときがすごい快感」
小泉「快感だよねー!」
香川「そう! 快感なの、あれが」
本木「(台本を捨てる仕草をしながら)もう『ノルマ達成!』っていう感じ!」
小泉「(台本を捨ててまた新しい台本をとるという仕草をしながら)『ハイ、終わった!次いこう!』みたいな感じだよ」
香川「これ(使い終わった台本)の中には何もないじゃない」
小泉「何もないよね」
香川「魂が抜けてった蝉の抜け殻みたいなもんだと思うの。この抜け殻をいつまで持っていてもしょうがない」
本木「私はまたなんか自己嫌悪復活になっちゃうから・・・
小泉・香川「(納得したように大笑い)」
小泉「そうだね」
香川「それぞれ捨てる理由がね」
本木「捨てても捨てても後悔してるんだけど、とりあえず目の前から消さなきゃっていう感じと」
小泉「いいんじゃない? だってもう作品になるんだしさ」
香川「そうだね」
本木「人間が何故長く生きていけるかっていうと、当たり前のチカラとして《忘却》っていう忘れられるチカラがあるから生きてゆけるっていう。なんかあのときあれだけ心が動いたはずなのにっていう旅の思い出とか、日常の瞬間とかっていうのを思い出せない」
香川「でさ、覚えてないとあれって行ったことになるのかなってこの頃すごく思って」
小泉「ほんとだねー」
香川「この仕事をするようになってから暗記力もすごく・・・台詞覚えなきゃいけないじゃない? でもそれと同時に忘却力もものすごく発達しちゃったのね」
小泉・本木「(笑)」
香川「そうすると、台詞を忘れるように、行った場所とか降りた空港の感じとか、特に海外が多いんだけどもうなんにも覚えてないの。そうするともう人間失格みたいな感じになっちゃって」
本木「(小泉に向かって)イタリアのサンレモ音楽祭に行ったのあなた覚えてる?」
小泉「行ったよねー! そういえば!」
本木「私たち一応武道館でやってた新宿音楽祭っていうのと姉妹音楽祭みたいな・・・」
香川「そのサンレモ音楽祭っていうのは音楽的にはどのぐらいの音楽祭なの?」
小泉「きっとたいしたことなかったよね(笑)」
本木「わかりませんがー、一応私たちはそれに新人賞・・・」
小泉「新人賞を獲った人たちがそこに招かれる、、、の?」
本木「でも実際の音楽祭では私たち出してもしょうがないから、小泉さんだけひとり」
小泉「えー、そうだったっけ?」
本木「小泉さんだけが日本の代表として」
小泉「歌った? あたし?」
本木「歌ったよ」
小泉「なんにも覚えてない!」
香川「それは何を歌ったの?」
本木「なにを歌ったんだろ・・・」
小泉「何を歌ったのかは覚えてないけど、デビューの頃の曲だと思う」
香川「例えばいまサンレモのことがふわっと出てきたけど、俺なんかちょっと前のことでも思い出せないんだよんねー」
小泉「若いときの方がいろんなことを衝撃的に受け止めてきてたから印象が強いけど、いまとかこう、割と平坦じゃない? 感動とかもこのぐらいのレベルで動いてるからあんまり刻まれていかないことが増えているっていうか」
香川「そうだね」
小泉「みんなそうなんじゃない?」
香川「いいね。それでいいね」
小泉「もう忘れようよ」
本木「でも忘れられないほどの感動が欲しい、やっぱり」
小泉「そうなんだよねー」


映画『おくりびと』を自らの発案で製作するに至った経緯を本木がひとしきり話した後、、、
小泉「いまの時代って映画とか見てても、当たり前のことでしょ? 生きてるってことは。でも、『生きてるんだよ』『生きてるっていいんだよ』っていうテーマの映画とかがすごく多いと思うの。だからそれをメッセージとして届けなきゃいけないような世の中なんだなって思う」
本木「その実感みたいなものが薄いって感じは・・・」
小泉「あるんだろうね。特に若い人たちは」
香川「幸せだからね。特にこのニッポンっていう国は」
小泉「ぼんやりはしてるよね」
本木「幸せなのかしら?」
小泉「だから逆にぼんやりしすぎてて痛みを知らないから幸せもわからないっていうか、ちょっと鈍感な感じになってるのかな?」
香川「そうだね。大人になりきれない部分というか」
小泉「幼稚だよね。大人が」
香川「『おくりびと』でもさ、リストラされた瞬間から、自分の中にある事件が起きて初めて真実に気づく更正の旅が始まるわけじゃない? でもその事件が起こらないと一生表面化されなかったであろう問題なんだよ」
本木「そういう意味ではアクシデントも必要だね。小泉さんどうなのよ? 人生のアクシデントは」
小泉「あたしは日々アクシデントですけどね。あたしの場合(笑)」
本木「どういう人がかっこいいと思うとかってあるの?」
香川「またベタな質問をストレートに聞くね」
小泉「ひとり独身だからねー」
香川「現場でも上手いのよ。意外に俺は逆にそこだけはって思ってたことをグググーッていくからさ、上手いなあと思うんだよね」
小泉「義理のお母様にも心配されて、樹木さんとかに」
本木「(笑)」
小泉「『あなた、こんなにほんといい人でー、仕事もちゃんと持ってるのになんでそこだけがダメなのかしら』みたいな。あたしとYOU? YOUとあたし、仲いいんですけど、ほんとに樹木さんは二人のことを考えると、どうにか伴侶を見つけて欲しいと思うんだって(笑)」

この他にも会話の合間に、インド旅行に行ったモックンがキョンキョン宛てに絵はがき送ったとか、そば屋で酔っぱらって話したとか、そういう話がちらほらと出てきて、同期アイドルのふたりがプライベートでもずっと交流が続いてるって話を聞くのはなんか嬉しいですね。そして思ったのは、キョンキョンはYOUとなんか似てる(笑)、話しっぷりが(笑)、ということでした。



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