宮崎駿・創作の秘密〜新たなる表現への挑戦〜

先日放送されたNHKプロフェッショナル 仕事の流儀 宮崎駿・創作の秘密』を見た。来年夏公開予定の新作『崖の上のポニョ』で、宮崎監督はCGを止めて手書きアニメに戻ることにしたと聞いたけど、なるほど、こういう理由だったのか。監督の発言や彼の身に起こった出来事が、ここ数年アニメ業界で見てきたいろいろなものとつながるので個人的にメモ。

(2006年5月31日)
新作映画の準備作業が始まって3週間が過ぎた。宮崎のイメージボードは徐々に出来上がりつつあった。主人公のポニョと宗介が水没した町に船出するシーン。ポニョの父親という謎のキャラクター。しかし宮崎の表情は険しかった。


宮崎「なんかうまく定まらないねぇ。漂流してるような気分。」


宮崎は新作映画でこれまでとは違う何かを探していた。


宮崎はデビュー以来、その濃密な映像で世界を驚かせてきた。『千と千尋の神隠し』で登場する《鬼の間》。隅々まで描き込まれた緻密な画面。絵の精度は頂点を極めたと宮崎自身感じていた。


しかし、去年2月、宮崎を大きく揺さぶる出来事があった。イギリス旅行の際に立ち寄ったテート・ブリテン。ラファエル前派と呼ばれる画家たちの描いた絵に、宮崎は大きな衝撃を受けたという。その1枚、ジョン・エヴァレット・ミレイ作「オフィーリア(1852)」。
*


細部まで丹念に描き込まれた画面。光の具合によって微妙に表情を変える油絵の質感に圧倒された。


宮崎「『なんだ、彼らが全部やってたことを下手くそにやってんだ』って思ったわけよね。驚嘆すべき時間だったんだけど。『ああ、オレたちのアニメーションはあのまま今までやってきた方向でこのまま行ってもやっぱりダメだ』っていうことがよくわかったなって感じがした。やっぱり自分たちが薄々感じているもんなんだけど、、、ああ、いや、オレは感じてる。これ以上行きようがないって。」


長い歳月をかけて練り上げてきた自分たちの表現手法。それに背を向け、どこへ向かえばいいのか。


宮崎「(描いた絵をパラパラとめくって動かし)違う。(それをゴミ箱に捨て)ダメだね。違うことだけは分かってる。才能も日々摩耗してゆくもんだから。どこが違うかなんてわかんないんだよね。」


映画と向き合う時、宮崎はいつもひとつの言葉を忘れない。


宮崎「正直につくんなきゃいけないんですよ、裸になって、ほんとに。『いやあ、これは娯楽映画だから』って作っていても実はその人間の根源的な思想がよく出てしまうものなんです。出すまいと思っても出ちゃうんですよ。それで隠して作るとそのしっぺ返しが本人“だけ”に来るんですよ。どういう風にくるかっていったら、『やっぱり正直に映画をつくらなかった』っていうしっぺ返しが来るんです。自分に、自分にダメージが来るんですよ。だから映画作れなくなります。」

番組中盤では『ゲド戦記』試写会の模様も映し出された。自分の作った映画で会話する親子ってのも屈折していてなかなかに面白い。新作で、父は息子にどんなアンサーを返すのか。


“油絵”と言えば、今年からアートアニメーションの本格配給に乗り出した三鷹の森ジブリ美術館。その第一回配給作品となる『春のめざめ』はロシアのアレクサンドル・ペトロフ監督が手がけた正真正銘“油絵によって描かれたアニメーション”です。

おお、youtubeにあった!(主題歌のPV?) 早く鮮明な映像で観たい(↑これ、ボケすぎ)。予告編はこちら(やっぱりこっちの方が映像きれい。油絵の質感もよく出てる)。『春のめざめ』は渋谷シネマアンジェリカで絶賛上映中です(同時上映「岸辺のふたり」)。