OV『こっくりさん 日本版』〜失われた十年は取り戻せるのか〜

2005年8月にリリースされた坂本一雪監督のOVホラー『こっくりさん 日本版』が、今月いっぱいまでネットで無料配信されています。
Yahoo!動画-ドラマ-「こっくりさん 日本版」


実は本作、Jホラー史上でも稀に見るある画期的なことに取り組んだ意欲作。まさに《次世代ホラー》と呼ぶにふさわしい逸品で、「レンタル行くのめんどくせー」というWin持ちの方はこの機会に是非とも見ていただきたい(配信は3/31まで)。

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こっくりさん日本版 [DVD]

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その上でもし「どこが意欲作なの? 別によくある普通の心霊ホラーじゃん」と思われるならば、あなたはいま、“あるもの”に対する感受性がひどく衰えてきており、そのことを自覚するべき時にきているのかもしれません。


この十数年心霊モノばかり量産され続けたせいか、受け取る観客の側に実はちょっとした弊害が起きているのです。長年単一色ばかり見続けていれば、それ以外の色に対する感度が衰えるのも致し方ないことではあるのだけれども、このままではせっかく新しい色を出して見せても気づいてもらえないまま闇に葬られ、いつまで経っても心霊ホラー以外のジャンルが育たないという事態になりかねないので、今年こそはそういうつまらん状況をどんどん打破していきたいと思うわけです。


そうまで言われても「やっぱりわからん。普通に心霊ホラーじゃん。ちょっとグロいだけで」という方は、これはもう完全に衰え切っちゃってるか、平成育ちかのどっちかだと思うので、以下の作品を観た上でもう一度チャレンジしてみてください。
ゼイリブ [DVD] 光る眼 [DVD]
実は私が本作を見て真っ先に思い出したのがこの2作。どちらもジョン・カーペンター監督作品なのは偶然ではないと思う(『こっくりさん〜』はよく黒沢監督の『回路』と比較されるけど、坂本監督が撮った『ほんとにあった!呪いのビデオ』シリーズを見ても比べるなら断然こっち)。構造的には昨年フジの深夜に放送されてた米映画『呪われた森』が一番似ているかもしれない(って言うと微妙に誤解を与えるのだが…)。


あとここらへんも。
宇宙戦争 [DVD] 未知との遭遇(ファイナル・カット版) デラックス・コレクターズ・エディション [DVD]
基本的にこのジャンルそれほどには詳しくないので、「三度の飯よりこの手の映画が好き」という人が見ればどの演出がどこらアタリの作品から引用されたモノなのかもっと的確に答えられるのではないかと思うのだけれど、私程度の知識ではここらあたりが限界。


ここまで言えばたぶんこの映画の本当のジャンルがなんであるかわかると思いますが、あえて補足するなら、こっくりさんで呼ばれて来たものは「幽霊」ではありません。脚本*1・演出共にあまりに巧くやりすぎてかえって分かりづらくなってしまってるけど、そのあたりを読み取れないからと無視して、Jホラーで見慣れた要素だけを取り上げ「初心者向けのありきたりな作品。ホラー好きには物足りない」と評するのは、これまで自分がいかにJホラー以外を見ないできてるか公言してるようなものなのでご注意ください(Jホラーや心霊ホラーだけがホラーじゃないのよ)。


本作はこれ以上手を加える必要など欠片も無いぐらいに絶妙な案配でできてます。脚本は台詞選びからしてかなり練り込まれたものであり、演出も非常に的確。ロケーションひとつをとっても「よくあんな町を見つけてきたな」と感嘆するほどで、冒頭から張りめぐらされた伏線を丹念に拾っていけば、ラストに語られる台詞によって全てが氷塊する仕掛けになっています。


「でもそれにしたって、なんでこっくりさんであんなものが呼べちゃうのかわからない」という人は、、、

天孫降臨 (ヤングジャンプコミックス ワイド版)

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この作品の冒頭に収められてる「闇の客人」あたりを読むとなんとなーくわかって頂けるのではないかと。鳥居鳥居、鳥居があればなんでも呼べる〜♪

「だいたい異界から来るものを人間が選ぶことができるだろうか(by稗田礼二郎)」

ですよねえ。路が通じちゃったらそっから何が降りてきても不思議ではないし人間にコントロールなんてできやしない(とは言ってもこの作品で呼ばれて来たものと『こっくりさん 日本版』で“間違って”呼ばれて来たものは若干異なるので、いわば拡大解釈ではあるのだけれども、「鳥居」という道具立てがあるなら十分にあり得る話。なんせ日本の土着文化と○○○とは天照大神の頃から非常に親和性が高いのだ)。



関係ないけど、清水崇豊島圭介のシャイカーコンビが、過去に自主映画で撮って好評を博し『怪奇大家族』制作のきっかけにもなったこんな作品を6月にリリースします(現在冬公開に向けパート3を制作中だとか)。

幽霊VS宇宙人 1 [DVD]

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やっぱり「幽霊」vs「宇宙人」ですよ。4月(?)から日テレで木曜スペシャルも復活するようだし、今年こそは「宇宙人」にも頑張っていただきたい。



-追記-
どこをどう見たらそう見えるのか、より具体的なことが知りたい方は、この記事のコメント欄にも登場してる侵略SF好きの方とこの作品について語りあったことがあるので↓こちらの記事のコメント欄でどうぞ(リンク先に飛んだらコメント欄の「もっと読む」をクリックしてください)。
https://eichi44.hatenablog.com/entry/20060622/p2#c



*1:古澤健(「オトシモノ」監督兼脚本)と谷川誠司(「地獄小僧」脚本)が担当。