『哀しみのベラドンナ』トーク、氷川竜介(特撮・アニメ評論家)

シルバー假面を期待していた皆さんスンマセン。行く前に会社で仕事してたら休日で人が少ないせいかすんごい寒くて、カイロ貼りまくっても寒気が止まらないんで終バスまでに帰ってこられるベラドンナに決めてしまいました(ヘタレ)。シルバートークレポはMovieWalkerさん、CinematopicsOnlineさんにお任せしたよ!(願望)


アニメ夜話でお馴染み氷川さんが来るということで、直前の豪雨にもかかわらず客は40〜50人くらい。さすがに今日は年齢層も幅広く、男性客の方が圧倒的に多かったです。だがしかーし! この直後のレイトで『サバイバル・ビーチ』の初日舞台挨拶が控えてたこともあり、トーク時間はおよそ10分弱(短っ!) せっかく氷川さんが来てくれたのにアニメ夜話のようなアナリストぶりを発揮する間もなく終了してしまいました(残念)。まあ、氷川さんの放つ「ベラドンナ好き好きオーラ」だけはしかと目に焼き付けてきたので、是非唐沢さんと二人でアニメ夜話へ大プッシュして頂きたいものです(紅白ショックでNHKのエロ放送コードがいまちょっと危うくなっておりなんとも難しいところだとは思いますが)。


竹熊さん入院のため急遽ピンチヒッターを頼まれた氷川さんですが、自身もベラドンナは大好きな作品なのでふたつ返事でOKしたとのこと。公開された当時('73年)はまだ高校生で恥ずかしさもあり劇場へ足を運ぶことは出来なかったけれど、それから4,5年後に池袋の文芸坐で行われたアニメ映画特集で初めて観て、特にふたつの点について衝撃を受けたとか。ひとつは、既にある程度のところまで完成されてたディズニーから始まる“背景があってその前でキャラクターが泣いたり笑ったりする”といったアニメ手法、アニメのお約束といったものをことごとく無視した作りになってること。もうひとつは、「痛み」や「セックス」に関する表現。「痛み」に関してはこれ以降もうまく表現した作品は出てきてるけど、「くりいむレモン」を始めとしたエロティックなアニメが80年代頃からたくさん作られるようになったけれど、いまだこれに匹敵するものは作られてないし、アニメというのはどんどん進化してると思いきや、逆に失われてしまったモノもあるんだなということを感じるそうだ。


60年代後半から70年代始めにかけて虫プロは大人向けのアニメを3本(『千夜一夜物語』『クレオパトラ』『哀しみのベラドンナ』)制作しており、(『クレオパトラ』のキャラクターデザインに『ヒゲとボイン』の)小島功を起用してるのもそのせいだとは思うが、これはその中でも《別格》であると。ベラドンナに比べれば前2作は言い方は悪いけど“ごっこ”みたいなもんで、どうしてこのようなアニメが作られたのか、その経緯は山本暎一監督著『虫プロ興亡記―安仁明太の青春』に記されているので、本自体はいまや絶版となってるがamazonなら中古で売ってるので是非手に入れて呼んで欲しいということだった。それによるとこれを作った当時、「アニメ」というモノに対して作り手の側に相当の《危機感》があったとのこと。原画なら原画、背景なら背景、動画なら動画だけという分業体制が確立してしまったことでアニメーターひとりひとりの持つクリエイティビティというものが失われてしまいそうだったと。また、本作の作画監督を担当した杉井ギサブロー氏などは、これの制作直後に『ジャックと豆の木('74)』というベラドンナとはまったく逆の、非常にディズニー的なアニメ映画を監督してるのだが、それについて本人は「ディズニーと決別するために一度きっちり作っておきたかったから」と述べているらしい*1


この日、ベラドンナの動画を2点ほど持参してきてくれた氷川さん(いいなあ、羨ましい。劇場スクリーンで観ると全体的に線や色が少しボケちゃってるんだけど、DVDで観るとほんと細やかで綺麗なのよ)。'78年に公開された劇場版『さらば宇宙戦艦ヤマト*2によって空前のアニメブームが起き、その時に手に入れた品だとか。当時は動画即売会というのをよくやっていて、虫プロもよく自社作品を出品していたという。普通の動画用紙にケント紙をまぜこんだような質感で、1枚目は(遠目だったんでどのシーンかはよくわからなかったのだが)彩色に金粉が使われてる場面の動画。金粉付きの動画が出回るというのは非常に珍しいことらしい。映像で観てもちゃんと金色に見えるのでDVD等で確かめてみて欲しいとのこと*3。銀が使われてるシーンもあるようだけど氷川さん自身はそれがどこなのか確認できなかったと言っていた。原画の左端下にナンバリングがされてるのだが、それを読むと400番台半ば。この絵の部分で400番台ということはこのカットだけでも1000枚近くの動画を描いてるということで、当時のテレビアニメの動画数が1本3000枚程度だったことを考えると驚異的な枚数だと話していた。もう1枚は、主人公のジャンヌの身体の上を無数のナメクジ(?)が這いずり回り、最後は紫色の蛾になって飛んでゆくというカットの1枚。これもナンバリングは400番台で、本編ではこの絵の上に特殊効果を施してるため映像では確認できない細かな描き込みなども見て取れるそうだ。


とまあ、こんな辺りでお開きに。氷川さんはまだ全然喋りたりなそうで、劇場スタッフに「まだ時間ありますか?」と確認していたが、あっさり「×」出されてあえなくお開きに。ちなみに氷川さん、三越でアニメに関する1日講座を行うそうです(詳細はこちら)。

*1:残念ながらギサブローさんはこの後、テレビアニメ『まんが日本むかし話('75)』の立ち上げに携わったのを最後に、自身の創作活動に限界を感じてアニメ業界を引退している。'82年に復帰するわけだが、それまでの数年間は絵を売りながら世界各地を放ろうするという生活に入っていたそうだ。

*2:劇場版ヤマトの監督もベラドンナ山本暎一が務めている。

*3:オーディオコメンタリーで監督も語ってたけど、アニメーションで金色がちゃんと金色に見えるようにするのは当時の技術としてはなかなかに難しいことだったらしい。