『立喰師列伝』トーク、押井守×深作健太(@シネクイント)

混むかと思ったけどトークショーやり倒してるせいか客は半分もいなかったかな。押井監督によれば、いつもこれぐらいらしく、「特に増えもせず減りもせず、もしかして毎回同じ人が来てるんじゃないの? そうなら話の内容変えないといけないので、二回以上来てる人は手をあげて」と挙手させてた(1、2割ぐらいがリピーター)。残り3回あるが(12日榊原良子、19日川井憲次、26日石井光久)、最前列で見たいという人以外は5分前でも充分良席GETできるんじゃないかと思う(ただし26日は最終日なので注意)。


案の定、ほとんど『エルの乱 鏖殺の島』(監督:深作健太 脚本:押井守)の話に終始。まずは誰もが気になる「クランクインが遅れてる理由」について。ネットではぽしゃったんじゃないかという噂も出てるがそんなことはないと。健太監督によれば、「押井監督に「暴動映画」を書いて欲しいとお願いしたのに、出来上がったら「戦争映画」になってた。とてもじゃないけど当初の予算じゃ足りないので、これからカンヌのマーケットにも出して新たな資金を調達すべく奔走してる」とのこと(ああ、だから今『スケバン刑事』なんか撮ってるのか)。予算の確保さえ出来れば、いつでも撮影に入れる状態だという。「ちょっと製作が遅れるとすぐ流れたとかなんとか簡単に言うけど、『立喰師列伝』も構想から製作まで15年も掛かってる。これも3年、5年、いや15年ぐらいかかるかもしれないが、自分としてはいつになってもかまわない。作りさえすれば」と逸るファンを牽制しつつ作品の完成を健太監督に念押しする押井監督。


何故押井監督が脚本家として参加することになったのか。本作は大阪の労働者街・西成地区(東京でいえば山谷みたいなところ。日雇い労働者を中心に、訳ありの人や国籍のよくわからない外国人なども多数住んでいる)で労働者と機動隊が衝突した「西成暴動」をモチーフにしており、深作欣二・健太親子が生前より二人で暖めてきた企画である。ところが、露骨に反権力を唱える内容なせいでなかなか企画が通らない。そこで、長年権力側との闘争を描いた作品を世に送り出してきた押井監督にどうしたら企画を通すことができるのかお知恵を拝借にきたのがそもそもの始まりだという。それが2年前。実は健太監督、それまで押井監督の作品は見たことが無く(「警察が主人公」と聞いただけで身体が受け付けなかったんだそうだ。ほんとにこの人は…。笑)、たまたま押井監督の書いた小説版『立喰師列伝*1を読んだところ、立喰師という“テロリスト”の話だったことから非常に感銘を受けたと(笑)。そこで監督の作品をいろいろと観てみたところ「この人は権力側の視点から描いてはいるが、自分の親父や、大好きな若松孝二長谷川和彦監督のように、反権力側の気持ちもきちんと分かってる人だ」とすっかり惚れ込んでしまい、それで会いに行ったんだという。


一方の押井監督も健太監督の作品はそれまで観たことがなく、『イノセンス』でカンヌに行った*2ときプロデューサーが暇つぶしにと『バトルロワイアル』の原作小説を渡してくれたが、それも結局読まずに帰ってきてしまい、その後人からビデオを借りてようやく『バトロワ2』を観たんだそうだ。「非常に“青臭い”映画だ」というのが第一印象。ただ、藤原竜也演じる主人公はアムロ君やシンジ君のような内向的な人間ではなく自ら武器を取り闘う青年で、最近の若い監督は自分や自分の周囲の非常に小さな世界を描く傾向にあるが、社会だ権力だなどと自分たちの世代のようなことを言ってる若い人がまだいるのかと興味が湧いたと。その一方で、健太の中にある種の危うさみたいなものも感じ、ストレートな剛球しか投げれない彼を変化球ばかり投げてきた自分が何かサポートできればと思い協力することにしたそうだ。最初はアドバイスだけの予定だったが、「大きな事(?)をするには根幹にひとつどでかい嘘をつかなければならない」という話をしてるうちに、「できればケルベロスの世界(ケルベロス・サーガ)の話にしたい」という申し出が健太監督の方からあって、それなら自分が脚本を書こうと。ところが書いてるうちに『ブラックホーク・ダウン』などを思い出したら筆が止まらなくなり(笑)、あれもこれもと詰め込んでるうちにいつのまにか暴動映画が戦争映画になってしまったという。アクションについては両監督で好みにズレがあるらしく、「自分は機関銃などを使うのが好きだが、健太は火炎瓶や鉄パイプ、スパナなんかを使うのが好きだ」そうで、とりあえず脚本は押井監督好みで書いたようだが実際の映画でどうするかは健太監督に任せてるそうだ。


押井監督の説明によると、『エルの乱』は暴動を起こす難民たちとそれを制圧するケルベロスと呼ばれる機動隊の闘争を描いた作品で、ケルベロスは既に一度解体しているため、本作では新旧ふたつのケルベロスが対決することになるとのこと(そのため現在押井監督は新ケルベロス用に新しい甲冑をデザインし直してるところ。「どんなデザインになるかは、ファンの皆さんお楽しみに」と言うておりました)。※私自身、特に押井ファンというわけではないので、ケルベロスについては大ざっぱなことしか知らないが、詳しい方は日本映画エンジェル大賞*3の公式サイト(こちら)に「第1稿のあらすじ」が載ってるので、そちらも参照しながら「おお、そういうことか」と思って頂きたい。


立喰師列伝』の話も少し。健太監督が「『イノセンス』の後になんでまた?と言われませんでしたか?」と問うと、「樋口真嗣とかみんなに言われた。なんでこんな貧乏くさい映画をと」と答える押井監督。監督としては『イノセンス』でやり尽くした感があるので、この後にやるなら逆にこれだろということらしい。大作しか作らない映画監督にはなりたくないし、大作の予算でしか出来ないこともあるけれど、そうじゃないものもある。ただ、自分が作りたい時期と作れる時期は必ずしも重ならないので、どちらになってもいいように常に備えておくことは必要だと話していた。今回『立喰師列伝』を作ってみて誤算だったのは、とことんまでふざけた映画にするつもりが意外と重くなってしまったこと。映画というのは「頭」でなく「身体」で作ってるんだなと実感したそうだ。振り返ってみるとテロリストの映画ばかり作ってきたので、次回作は全く違うものにしたいとも言ってた。ただ、「恋愛もある意味、男から女へ、女から男へのテロみたいなもんだよなあ」とも語ってたので、どうなることやら(笑)。現在『スケバン刑事』のポスプロ中だという健太監督は数日前に『立喰師列伝』を観たそうで、以来毎日のようにカレーだケツネうどんだと食べてると。「さすがに無銭飲食まではまだいけない」と恐縮して観客の笑いを誘っていたが、『エルの乱』も『立喰師〜』のように、観終わった観客が劇場を出た後に小石のひとつでも拾って投げたくなるような、観た後に何らかの行動を起こしたくなるような気持ちにさせる映画にしたいと熱く語っていた。


エルの乱』も当然東映が配給するものと思っていたが、健太監督曰く「配給先はまだ決まってない」そうで、「まずは東映の社長に押井監督の『紅い眼鏡』を見せるとこから始めなければ」と言って会場の笑いを誘い*4、今日のトークショーはお開きとなった。



生で見る深作健太は微妙に北村一輝だった(顔が)。トーク中、押井監督が「健太、健太」と呼び捨てにしてたのが印象的(可愛がられてるっぽいね)。資金集めが上手いのは親の七光りだけじゃねーぞというのはなんとなく分かった。ほとんど一人で喋ってたのに、まだ喋り足りない感じの押井監督。もっと過激なとこまで突っ込んで話たいそうで(『立喰師〜』で語られる昭和史も後半は連合赤軍の話ばかりだったし)、次回この二人のトークショーがあるときはより一層面白い話が聞けるんじゃないかと。監督は15年掛かってもいいと言ったけど、エンジェル大賞からの融資は7年が期限。なんとしてでも『スケバン刑事』当てて東映を引き込んで欲しい(笑)。がんばれ、健太! 


【関連】
深作健太監督、次作は「西成暴動」を構想(2005/10/20 大阪日刊スポーツ)
KERBEROS-SAGA(ケルベロス・サーガ)公式サイト ※現在製作中
野良犬の塒: ケルベロス・サーガ アーカイブ


*1:2004年2月発売

*2:2004年5月

*3:エルの乱』の企画は2005年下期の受賞作品。同年8月には第1稿が完成してる。

*4:紅い眼鏡』がどんな作品なのか知らないのだが、観た人の感想を読む限り「東映の社長なんかに見せたら死んでも配給してもらえないぞ」という意味の笑いだったと思われる