『放送禁止4〜隣人トラブル編』の<真実>とは?【解決編・前編】

10/12(水)の深夜にフジテレビで放送された『放送禁止4 戦慄の恐怖 隣人トラブルが引き起こす悲劇』。その映像に隠された<真実>についてちょっとばかし探ってみたいと思う。ただし今回は、あまり設定が作り込まれていないというか、謎解きよりドラマとしての面白さに重点が置かれていたようで、視聴者を意識した「ネタばらし」と雰囲気作りを強化するだけの不要な情報ばかり目立ち、『放送禁止3〜ストーカー地獄編』のように全体像がすっきりまとまらないのがもどかしい。


ネタバレしまくりなので、これから番組を見る予定のある方はご注意を。あらすじはこちら(追記:本作は2008年8月20日にDVDが発売されておりますので、まずはそちらをご覧になってください)。


長くなったので前後編に分けます!(と言ってもまだ後編書いてないので前中後編になったりして…) 以下、ネタバレ
↓↓↓↓↓↓



まずは頭の中を整理するために、ざっと時系列に並べ替えてみた。

  • 2000年3月 森下さん一家がUさん宅の隣に越してくる

(夫・仁志さんの浮気発覚→妻・利香子さんがUさんに相談→解決)
(Uさんが宗教に凝り出し、愚痴るご主人の姿が目撃される)
(妻・利香子さんがUさんから“お茶会”と称し宗教の集まりに連れて行かれる)

  • 2001年4月 Uさんのご主人が急性心不全で死去

(徐々にUさんの人柄が変わってゆく)
(近所に「Uさんがご主人を呪い殺した」と噂が立つ)
(夫・仁志さんの二度目の浮気が発覚)

  • 2002年夏頃 夫・仁志さんが妻・利香子さんを通してUさんから宗教の勧誘を受ける→断る

 →森下家への嫌がらせが始まる

  • 2003年9月 隣人からの嫌がらせの件で番組スタッフが森下家を訪れる(※取材開始)

 →「Uさんが怪しい」と疑う妻・利香子さんは、夫をUさん宅へ行かせようとする
 →夫・仁志さんは「証拠もないのに近所の人を疑うのは良くない」とこれを拒否
 →妻からの要請で、スタッフが隠しカメラを設置
 →Uさんが嫌がらせを行う決定的な証拠映像を押さえ、夫も納得
 →スタッフがUさんの口から嫌がらせの動機を聞き出す
(「森下家が災いを運んできたせいで主人が死んだ」「悪魔を退治しなければ」)
 →これは手に負えないと警察に頼ろうとする夫を「穏便に解決したい」と妻が止める       
 →朝食後、森下夫妻がUさん宅に話し合いにゆく→謝罪をもらい解決
 →嫌がらせがなくなる(※一旦、取材終了)

  • 2003年10月 息子がUさんからもらったドーナツを食べて体調を崩す

 →妻・利香子さんが番組スタッフに連絡(※取材再開)
 →妻が夫・仁志さんを「Uさん宅へ行って話つけてこい」と責め立てる
 →夫・仁志さんがUさん宅に話し合いにゆく
 →Uさんがお経を唱えると、突然仁志さんが苦しみだして倒れる
 →病院に運ばれ死亡→急性心不全と診断される(※取材テープお蔵入り)

  • 数ヶ月後 葬儀も終わり、マンションに引っ越した妻・利香子さんを番組スタッフが訪ねる


事の真相を簡単にまとめると次の通り。
『お隣に住むUさんに誘われ、周囲に内緒で或る新興宗教団体に入っていた妻・利香子さんは、夫・仁志さんの浮気発覚等をきっかけに、Uさんと結託して夫の殺害を企てる。Uさんは以前にその手でご主人を毒殺したことがあり、表向きは「急性心不全」として処理されながら、“拝んで呪い殺す”と噂される宗教に嵌っていたことで、近所の人に「ご主人はUさんに呪い殺されたのではないか」といった噂を立てられていた。そこで二人は「森下家に逆恨みしていたUさんが呪い殺したかのように見せかけて夫・仁志さんを毒殺する」という偽装殺人を計画。同じ教団の信者である医師に死因を偽証してもらい警察の嫌疑を逃れた妻は、葬儀後別のマンションに移り住み、子供と二人で新たな人生をスタートさせた』



仁志さん殺害に行く前に、まずはUさんのご主人が殺害された経緯について探ってみる。


Uさんのご主人が亡くなったのは、森下家が越してきて約1年が経過した2001年4月。ご主人が亡くなる少し前からUさんは宗教に凝り始めており(その頃、利香子さんもUさんから勧誘を受けている)、それが不満だったご主人は、行きつけの喫茶店のマスターに「早く止めて欲しい」といつも漏らしていた。そんなご主人の存在が疎ましかったのか(それとも他に理由があるのか…)、2001年4月、Uさんはご主人が愛飲しているコーヒーに毒を盛り殺害。死因は「急性心不全」ということで処理されたが、その裏には仁志さん殺害と同様、医師(同じ教団の信者)による手助けがあったものと思われる。



そして本題、夫・仁志さんが殺害された経緯について。動機はちょっと置いといて、先に計画が実行に移されてから成功に至るまでの経過をまとめてみたいと思う。


仁志さん殺害を思い立った利香子さんとUさんは、次のような殺害計画を練る。
『ご主人の死を逆恨みしたUさんが森下家に嫌がらせを行う→嫌がらせを止めるよう森下夫妻がUさん宅に話し合いに赴く(※直前に仁志さんには毒入りコーヒーを飲ませる)→Uさん宅にいる間に毒が回り仁志さんが倒れる→そのまま死亡→医者(教団の信者)に「急性心不全」と偽証させ警察からの嫌疑を逃れる』


殺人にわざわざ《呪い》を絡めたのは、(その方がドラマとして面白いとか、映画『ノロイ』公開直後だったからといった身も蓋も無い理由を除けば、)嫌がらせの加害者・被害者ということでUさんと利香子さんがグルになってることを疑う人はいないだろうが、死に方が不自然なので、たとえ警察の嫌疑も逃れても、二人が何かやったのでは?と怪しむ人が出てこないとも限らない。そこで世間の目を計画殺人から逸らすため、《呪い》というオカルト現象を持ち出し思考停止を図ろうと目論んだものと思われる(ただ、既に噂が立っている中での犯行とはいえ、Uさんにしてみればかなり割のあわない役回り。わざわざ憎まれ役を買って出るなんて、ものすごいお人好しなのか、神経いかれてるのか、何か表に出てないメリットでもあったのか…)。


《呪い》の力で人を殺すができれば良かったのだが、そんなことは無理なので、Uさんのご主人を殺した時と同じように「心臓発作と似た症状を引き起こす毒物」を用いて殺害した(嫌がらせの際に家庭菜園が枯らされたが、手口としては珍しいので「もしや除草剤で毒殺するのか?」と思ったが、どうやら関係なさそうだ…)。毒入りコーヒーはUさん宅に赴く直前に自宅で飲ませることになった(Uさん宅で毒を飲ませるのはリスキーだと思ったのだろうか…)。いくら心不全に似た症状を引き起こすとはいえ、体内に毒物が残っていれば検死でバレてしまうため、完全犯罪成立には、信者である医師に死因を偽証してもらうことが必要かつ絶対条件だった。Uさんと診断にあたった医師が不倫してるなどの情報でもあれば医師の単独支援ということも考えられるが、教団信者つながりであることがことあるごとにクロースアップされてることから、今回の殺人計画には教団の組織的バックアップがあったものと推察される。救急車を使いながら仲間の医師が勤務する病院に運良く連れて行って貰えたのは、スタッフに呼ばれて救急車に同乗したであろう利香子さんが救急隊員に「かかりつけの××病院へ行ってください」と指示したか、大きな病院がそこひとつしかないような小さな町だったのかもしれない。もちろん医師にはあらかじめ決行日を伝えスタンバイしてもらう。


死因を偽証出来るのなら、《呪い》や《嫌がらせ》なんて手の込んだことせずに自宅で心臓発作を起こし亡くなったことにすればいいような気もするが(現にUさんのご主人のときはそうしてる)、仁志さんには糖尿病等の持病がなく(糖尿病も偽証すればいいじゃんと思うかもしれないが、そんな持病があれば会社の人も知ってるだろうし、いままで健康診断で引っ掛かってないのに突然持病扱いにするのは難しい…)、健康な30代男性が突然心不全を起こし亡くなるのは不自然だと感じたのかもしれない(ちなみに心疾患は30代男性の死亡原因第3位*1。Uさんのご主人は写真の印象だと60歳は越えており、その年齢だと心疾患は死亡原因の第2位にきてる*2)。そのことで別の要因、例えば「過度なストレスによって心臓に負担がかかった」という状況を生み出す必要が生じた。


本来ならUさんからの嫌がらせが直接的なストレス要因になるべきだと思うのだが、それがうまくいってないのは二人にとって誤算だったんじゃないかと思う。家にあまりいない仁志さんは、嫌がらせを受けているという実感があまり湧いてないようで、利香子さんがどんなに訴えてもUさん宅に話し合いに行く気配を見せなかった。そのため、二人はずるずると1年も嫌がらせ工作を続けるはめに。もともと仁志さんは、他の女との情事に夢中で、家庭でどんなことが起こっていようとたいして興味がなかったのだろう(浮気相手は会社で会えるくせに日曜にも電話してくるような人だしね)。嫌がらせがいつも夫のいない昼間に行われていたことも原因のひとつだと思うが(夫が家に帰るのはいつも夜中なので嫌がらせの形跡が残っていても暗くて気づきにくい)、仁志さんがUさん宅へ話し合いにいかなければ毒殺できない以上、どうしてもここらでてこ入れが必要だった。そこでテレビ局の取材を利用し、取材カメラを家に入れることで、仁志さんがUさんとの話し合いから逃げられないよう更なるプレッシャーをかけることにした。



というわけでここからは、利香子さん視点でまとめてみる。


2003年9月、うまいことテレビ局の取材をとりつけることに成功した利香子さんは、森下家を訪れた番組スタッフに被害の状況をいろいろと見せて回り、Uさんからの嫌がらせでどれだけ苦痛を強いられているのかをアピールした。更に、それがいますぐ解決しなければならないほど切迫した状況だと思わせるために、スタッフと夫が別室にいる隙を見計らって、自らリビングの窓ガラスを割り、駆けつけた夫らに「外から何かが飛び込んできた」と嘘をついて、何者かによって家の外から窓ガラスが割られたように工作(※窓ガラスが中から割られてることは、ガラスの破片が家の外側に散らばっていたことで証明されている)。利香子さん一人がいくらプレッシャーをかけてもまったく意に介さない仁志さんだが、さすがに第三者の目の前でプレッシャーをかけられれば重い腰をあげると踏んだのだろう。しかし、敵は手強かった。「息子にまで危害が及んだらどうするの?」という訴えも虚しく、「証拠がないから」の一言で逃げ切ろうとするヘタレな仁志さん。そこで利香子さんはスタッフに頼んで証拠映像を撮ってもらい、今度こそ仁志さんの逃げ道を完全に封じる。さすがにもう逃げられないと観念したのか、仁志さんはスタッフの前でUさんと話し合うことを決断する。


ところがここでまたしても誤算が。《呪い》に見せかけた殺人ということを強調するためにUさんがスタッフに話した内容のせいで、「もう手に負えない。警察に任せよう」と言い出す仁志さん。そんなことされたら計画が台無しになってしまう。そこで利香子さんは「Uさんが昔の浮気話を喋ってるかもしれない。家の過去恥部を公に晒したくない」と話し合いで解決するよう夫を説得しなければならなくなった(※この浮気のネタ晴らしはあからさますぎる。「夫が会社の女性と浮気をしていて奥さんがそのことをひどく憎んでいる」とUさんはスタッフに喋ってしまったけど、そんなこと知られたら妻が夫のことを快く思っていないことがばれてしまう。視聴者向けのヒントのつもりで挿入したんだろうが、夫の不倫が続いてることは、夫にかかってくる不審な電話(ガラスが割れた直後の電話、携帯にかかってきた電話)や、見知らぬ女性と抱き合ってる隠しカメラの映像で後々わかることなのだから、現時点では「過去に浮気をしたことがある」程度にとどめておいてほしかった)。


数日後、Uさんに話し合いに行くというので取材スタッフが森下家を訪れる。利香子さんは朝食時に夫にコーヒーを出すが、そのとき使われたマグカップがUさんの家にあったものと同じことから、このコーヒーには毒が入れられてると推察される(食後に出せよって気もするのだが…)。ところが不運にも、はしゃいだ息子が夫にぶつかったため、持っていたコーヒーがこぼれ飲めなくなってしまう。利香子さんはすぐに新しいのを入れ直すと言ったが断られ、毒を飲ませられないままUさん宅に向かう羽目に。居留守を使うなど、飲ませることに失敗したときの手をあらかじめ考えておけば後日改めて決行することもできたのだろうが、そこまで頭が回らなかったのか、Uさんに連絡する隙がなかったのか、話し合いは決行され、その場の流れか和解が成立してしまった(ここで交渉が決裂したら仁志さんは警察に行くと宣言してたので、話し合いの席についたが最後、和解にもってゆくしか道はなかったのだろう)。


しかし、さすがにここで計画を終わらすわけにはいかない。1ヶ月後、再び毒殺にチャレンジ。今度は息子に仮病を使わせ、Uさんにもらったドーナッツを食べて具合が悪くなったことにし、スタッフを呼んで、どうしてもいますぐUさん宅に話をつけにいかないといけないような状況をセッティングする。再び夫にコーヒーを出した利香子さんは、話あいに行ってくれと懇願。しかし相変わらず渋り顔のヘタレな仁志さん。その姿に堪忍袋の緒が切れたのか、もはや芝居なのか本気なのか区別つかないぐらいの勢いで、浮気のことまで持ち出し泣きわめきながら夫を責め立てる利香子さん。無言でなすがままになってた仁志さんもこの猛口撃にはさすがにまいったのか(人前で浮気のことまでバラされるし)、コーヒーをぐいっと飲み干し、Uさん宅へ向かった(飲まなかったらどうするつもりだったんだろう…)。


スタッフも後を追うが、Uさんから同席を断られたため、外から話し合いが見える場所を探し出して二人の様子を撮影していた。すると、Uさんが何やらお経を唱え始め、しばらくして仁志さんが苦悶の表情を浮かべ倒れてしまった。すぐさま現場に駆けつけたスタッフは救急車を呼びに表へ飛び出す(※後にスタッフは「直接Uさんが手を下してないことは私たちのを撮影したビデオでも証明されている」と語っているが、そのことを証言させるため利香子さんが彼らを呼んだのかというと、それは少し疑問である。家に入ってから死ぬまでをノーカットで撮影させた方が証拠能力は高いのにUさんはそれを拒否してるし、前回の話し合いのとき同席を断られたスタッフは盗撮などせず家でおとなしく待っていたので、スタッフに殺害の様子を撮られる確率は五分五分ではないだろうか)。


病院に運ばれた仁志さんはまもなく死亡。医師(教団信者)によって「急性心不全」との診断が下され、警察も事件性はないと判断。嫌疑から逃れた利香子さんは、葬儀終了後、住んでた一戸建てを引き払い、息子と共に別のマンションで新生活をスタートさせた。。。




、、、というわけで、前編はここまで。「殺害の動機」と「新興宗教団体」についてのまとめは後編に持ち越し。



ちなみに、冒頭で「謎解きよりドラマ的な面白さに重点が置かれてる」と書いたけど、森下夫妻にはモデルが存在している。そのヒントが、Uさんが大音量で流してた《狂言》のテープ。あれは、「一連の出来事は利香子さんによる“狂言”ですよ」ということを示唆してるだけではなく、「演目である『鎌腹』が元ネタですよ」という意味も込められていた。


調べて納得。『鎌腹』とは、次のような話だった。

家庭を顧みず毎晩よそを泊まり歩く怠け者の夫に腹を立てた妻が、「こんな役立たずは生きててもしょうがないから殺してやる」と、棒の先に鎌をくくりつけたものを持ち、ものすごい剣幕で夫を追いかけ回す。殺されてはたまらんと転げるように逃げまどう夫。そこへ仲裁人が止めに入り、妻から鎌を取り上げ事なきを得るが、今度は夫がその鎌をとり、そこまで侮辱されて生きてられるか!死んでやる!と腹を切ろうとする。ところが妻は、どうせできないくせにと仲裁人を連れていなくなってしまう。見物人がいなくなり困った夫は、とりあえず切れ味が良くないと腹が切れないと鎌を研いでみたり、腹に突き立ててみたりするが、どうしても死ぬのが怖くて刺すことができない。木に鎌をくくりつけて突進したりもするが、すんでのところでやはり躊躇してしまう。そのうち諦めた夫は、通りがかりの人に妻への伝言を残し、山へ芝刈りに行く、、、という話。流派によって多少筋が変わるらしく、仲裁人が入ったことで事なきを得た夫は渋々山へ柴刈りに行くが、途中で腹が立ってきて「もうあんな女とは一緒にいられん!死んでやる!」と大声で宣言し、持ってた鎌で腹を切ろうとする。しかし臆病心が邪魔してなかなか切れない。やはり自分には無理だと諦めかけた頃、噂を聞きつけた妻が止めにきて、泣きながら「そんなに死にたいなら私も一緒に死ぬ!」と言うと、「そんならおまえが代わりに死んでくれ」と鎌を渡そうとし、更に妻を激怒させるという展開もあるそうだ。

浮気者の甲斐性なしに嫌気がさした妻・利香子さんの激高ぶりと、妻子が大変な目にあってるのにいつまでも他人事で、Uさん宅に行ってくれと何度懇願してものらりくらりとかわし話し合いを避けようとする夫・仁志さんのヘタレっぷりが『鎌腹』の夫婦そのままで、二人のやりとりに注意して見返すとたまらなく可笑しい。毒殺をやり遂げ新しい生活をスタートさせた利香子さんの笑顔がほんとに嬉しそうでね(笑)。せっかく30代の死亡原因の1位が「自殺」なんだから、本編に夫の自殺話も盛り込んでくれると手が込んでて面白かったのに残念である。


−追記−
【解決編・後編】を書きました。




関連:「放送禁止」シリーズ過去記事一覧


追記(2022.1.15)
昨年末にBSテレ東で放送された『Aマッソのガンバレ奥様ッソ!』が同じような番組なのでご紹介しておきます。テレ東公式やTVerで動画配信中。お早めに。



*1:1位は自殺、2位は事故。

*2:1位はガン、3位は脳溢血。