『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』他1本を観た(@新文芸坐)


新文芸坐「追悼 石井輝男監督特集」が始まったわけですが、初日の上映作品である『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』と『徳川いれずみ師 責め地獄』を観てきました。『恐怖奇形人間』は何度も上映されてる作品なのでそれほど人いないかなとたかをくくっていたのに立ち見も出る始末(早めに行っといて良かった)。年齢層も幅広く、人気の高さを実感しました。あ、特集は11/11(金)まで続くけど、酔ってたお客さんが入場断られてたので、赤ら顔では行かないように。


どちらも今回が初見。『恐怖奇形人間』は存在を知って以来ずっと観たかった作品だけど、“しょっちゅう上映されてる(=観逃してもすぐ観れる)”という事実と「美味しいモノは一番最後までとっておく」という性格が災いし、「どうせここまで待ったんだから、ベストなタイミングが訪れるまで待ち続けよう」という欲が出てずーっと見送ってた。ベストなタイミングっていうのは例えば、たまたまトーク番組を観てたらゲストが石井輝男の想い出話をしていて、次の日コンビニで立ち読みしてた雑誌に土方巽の記事が載っていて、その夜ボーっと見てた「名探偵コナン」がパノラマ島奇談をモチーフにした話で、「なんか続くなあ…」と不思議に思いつつネットしてたら『恐怖奇形人間』が上映されるという情報を見かけ、「どう考えても呼ばれてるとしか思えない。行くなら今だろ」という、そんなタイミング。まあ、カルト人気作品であるがゆえに、感想などを読むと、客の大半は最初から“笑い”に来てるという噂も聞き、真っさらな状態で観たい初見者としては、コアなファンが集う状態で観るのはできるだけ避けたかったというのも、劇場に足を運ぶことを躊躇させてた要因のひとつではある。


残念ながら今回はそんなベストなタイミングが巡ってきたわけでもなんでもなく、「フィルムの状態がだいぶ悪くなってる」という物理的な要因で危機感煽られ、不覚にも観に行ってしまった次第。11/5(土)から『フリークス デジタル・リマスター版』も公開されるし、『メゾン・ド・ヒミコ』の田中泯土方巽を思い出してた最中でもあり*1、今回が<追悼特集>ということも考えあわせると、ベストではなくともベターなタイミングだったと自分自身を慰める。


まずは江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間土方巽の舞台は映像(『土方巽 夏の嵐』)で観てるけれど、その印象からすれば、これは完全に土方とのコラボ作品。屋外だったこともあり、思ったほど奇天烈な映像世界にはなっておらず、ラストの「おかーさーん!」を見る限り、石井輝男だけだったらまったく別の世界がスクリーンに広がっていたんじゃないかと思う。意外にも異形の人のもの悲しい話に仕上がっており(過去映像の土方巽がほんとに冴えない男で奥さんとの対比が泣けてくる)、その手の話に弱い身としては、爆笑必死と言われるラストの「おかーさーん!」も全然笑えなかった。劇場に響き渡る客の笑い声に「鬼畜!」と思ったぐらい(それはそれでなかなか素敵な光景だった)。奇形人間の造形が特撮っぽくなく、モノクロ写真で見る異形の人たちのような雰囲気だったのも良かった。


以前から『リング』の貞子ダンスと暗黒舞踏の関係には興味があったけど、まさか『恐怖奇形人間』の土方巽がそのルーツだったとは…。岩場の土方登場シーンが井戸から出てくる貞子にピタッと重なり、妙に感動した。これまで土方と貞子が結びつかなかったのは、土方が“男”であり、“十字架に貼りつけられたキリスト”というビジュアルイメージが先行してたからかもしれない。黒く長い髪、細く長身の体躯、女物の白いワンピース、、、気付かない方がおかしいのか。岩場から突如として現れた土方が、関節をカクカクと不自然に動かしながら画面ににじり寄ってくる様に、「このままスクリーンから飛び出してくるのでは…」とドキドキした。もちろん、そんなことはありえないんだが、何度観ても伸ばした指先がスクリーンのこちら側に抜け出ることを期待してしまう(井戸から出てくる貞子もデカいスクリーンで観ないとダメだね。あの大きさでこちらに向かってにじり寄ってくるから怖いんだ)。『リング0』の貞子みたいに崖から飛び降りて自殺するんじゃないかとドキドキしたけど、そんなことはなく、ホッとしたり物足りなかったり。。。岩場の登場シーンがもう1度観たくて、次の作品を観た後にまた最初の方だけ観てしまった(入替制じゃなくてほんとによかったっす!)。


続いて『徳川いれずみ師 責め地獄』を観る。古い邦画は(いや、邦画に限らないけど)ほとんど観ないので、コロンボ刑事のイメージしか残ってなかった小池朝雄がとても良かった。そうか、こういう役者だったのか。来週、土方巽も出てる『明治大正昭和 猟奇犯罪史』がやるから、また行こうかな。『恐怖奇形人間』の後に観るとちゃんとしてる映画に見えるのは何故だろう。いまの時代ではもう作れない気がするのは、お金とか監督とか作風が世間的にどうのとかいう以前に、さまになる女優を集めるのが大変そうだと思ったからかもしれない。女牢名主役の賀川雪絵さん、好きです。こういう鼻っ柱の強いあばずれ系の顔には昔から弱くて、最近だと鈴木砂羽とかね(全然最近じゃないけど)。と思ったら、賀川さん、サンバルカンスパイダーマンに出てた。全然思い出せないけど…。もしかして全てのルーツは彼女なのか? 東京フィルメックス「中川信夫特集」に『怪談 蛇女』が入ってないのが残念。今ならネットでも観られるけど、映画をパソコンで観る気にはならないので(途中で止まるのがイライラする)、どこかで上映してほしいなあ。


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*1:ちなみに田中泯公式サイトに行くと、泯さん自身が「田中泯土方巽の正当なる嫡子である」と宣言している。ダブって当たり前か。