フェイク・ドキュメンタリーにフィクションだとわからせる演出は必要か

フジテレビで密かに人気の深夜番組に『放送禁止シリーズ』というのがある。現実には起こらなかった作り話をドキュメンタリー仕立てで見せる“フェイク・ドキュメンタリー・ドラマ”で、2003年4月に第1作が放送され、これまでに3作品オンエアされている。関東だけで放送されるローカル番組*1、放送日時が不定期かつ夜中の丑三つ時ということもあって、3作全部リアルタイムで見たという人はかなり貴重。


私が初めて見たのは、昨年の3月。シリーズ3作目となる『放送禁止3/ストーカー地獄編』からだった。名前だけは知っていたので深夜枠のテレビ欄を注意深くチェックしていたところ、リアルタイムでの視聴に成功した。CX『NONFIX放送禁止歌』みたいな番組だと思って見てたら予想は見事にはずれ、フジテレビで深夜に放送されていた『Dの遺伝子』と『Trap-TV』を足したような番組だった。フジの深夜黄金期を彷彿とさせる手の込んだ作りに「それでこそフジテレビだ!」と嬉しくなり、「どうせ再放送なんてしないだろうなぁ」と思うとあまりに寂しく勿体なかったので内容を書き起こしておいたところ、夜中にヘンなもの見ちゃってもやもやしてた関東人からものすごいアクセスが…。以降、関西、九州、中京と、別の地域でオンエアされるたびに尋常じゃない数のアクセスがくるようになった。ここ1年ぐらいは下火になっていたけど、先日公開された映画『ノロイ』やTBS『日本のこわい夜−特別編−』の影響で、再び注目が高まってきているようだ。



『放送禁止シリーズ』の企画・演出・脚本を担当しているのは、『奇跡体験!アンビリーバボー』『木曜の怪談』『富豪刑事』等の演出で知られる長江俊和ディレクター。彼が初めてフェイク・ドキュメンタリーを手がけたのは、'92年にフジテレビ深夜で放送された『FIX』という単発番組だそうだ。そこで手ごたえを感じ、'97年、菅野美穂袴田吉彦小嶺麗奈といった若手俳優を起用し『Dの遺伝子』というフェイク・ドキュメンタリー・ドラマを30分1クールの深夜枠にて制作(菅野美穂が出た回はこちらを参照)。その後、映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のヒットによりフジから「またやらないか」とのオファーを受け、'03年『放送禁止』でみたびこの世界に戻ってきたそうだ。


『放送禁止3/ストーカー地獄編』は、かなり緻密に作り込まれた作品だった(詳しくは過去記事参照)。役者には一切台本を見せず、プロットの箇条書きだけ渡してその場の新鮮な反応を撮ってるらしい。にもかかわらず、登場人物の喋る台詞には一切の無駄がなく、映し出される映像の全てが謎を解くための重要なヒントになってる。台詞と映像を繋ぎ合わせれば必ずやいくつかの答えに辿り着ける親切設計。局と時間帯のおかげで、ドキュメンタリー番組『NONFIX』と見まちがえそうになるが、ニュースやドキュメンタリーによく接してる人なら早い段階である種の不自然さ、違和感を感じるはず*2。しかも、話が進むにつれ、あからさまに不自然なシーンが出てくるので、ネタばらしする前にフェイク・ドキュメンタリーだとバレバレになるのがこの番組唯一の欠点といえる。


しかし「もっとうまく騙してくれ」というこちらの要望とは裏腹に、「完璧なドキュメンタリーに見えるようなものは目指してない」*3と語るのが長江ディレクター。「深夜何気なく見てる人の気を惹きつけるには“へんてこな魅力”が必要。突然フィクションっぽいカット割りをいれたりして、ホントか?ウソか?という変な感じは残したい」と言うんだけど、なーんか納得いかない。そんなことしなくても話の展開があれだけサスペンスタッチなら、それだけで十分惹きつけられるし、もしこの番組で起こってることが事実だとしたら、ニュースにもならず番宣もせずにこんな深夜にひっそり放送されてること自体おかしな話で、ドキュメンタリーだと思って見てる人だって、そのことに心のどこかで違和感は感じるはず。最後に『これはフィクションです』って出すのだから、その時点で「なーんだ。変だと思ったんだよ」って大半の人が納得してくれると思うんだが、それじゃあダメなんだろうか。。。



ところがつい先日、そこに至るまでの経緯が分かるようなインタビューに出くわすことができた。


以下、今月の人:長江俊和さん(@80's PEOPLE)より『FIX』『Dの遺伝子』について。

「FIX」〜これはドキュメンタリー風ドラマでした。現実ではなかった話を、ドキュメンタリー仕立てで楽しむというもの。(−中略−)どれも深夜枠にしてはかなりいい視聴率をとりましたが、視聴者が本気でドキュメンタリーだと勘違いしてしまい、局にはクレームも来るし困りました。もちろん何度も「これは作り話です」というアピールはしているのですが、作りがドキュメンタリーなので、気がつかずに思い込んでしまうのでしょう。

「Dの遺伝子」〜これも前回お話した「FLX」と同じく、ドキュメンタリー仕立てのドラマでした。これは企画としても面白いのですが、視聴者が本気でドキュメンタリーだと思い込んでしまうのが問題でした。そこでタレントを出演させることで、「あ、これはドラマなんだな」とわかるように作ったのがこの「Dの遺伝子」です。主人公が菅野美穂さんだったら誰もドキュメンタリーだとは思いませんからね。


『FIX』でやったのは、“もし現代に必殺仕事人がいたら?”“20年前に超能力者として騒がれたあの子はいま?”の2本だったそうだ。深夜に放送し、「作り話」であることをアピールしたにもかかわらず、完璧なドキュメンタリーだと思いこんだ人からクレームがきちゃったわけだね。それを回避するためには、やはりフィクションであることを視聴者に気付かせるためのわかりやすい演出が不可欠だと。


大家族で起こった“ある事件”に心霊を絡めた『放送禁止2』を放送したときにもものすごい反響をもらったらしい。視聴率は低かったが、局への電話がその日放送されたフジテレビの番組の中でもっとも多かったそうだ。その大半が「何がやりたいんだ!」というクレーム(笑)。『FIX』を放送した10年前に比べれば、フェイク・ドキュメンタリー(ドキュメンタリー風ドラマ)という手法そのものの認知度は高まったけど、楽しみ方はまだよく伝わってないというところだろうか。ちなみに『放送禁止3』の時も反響は大きく、(電話は知らないが)フジテレビの公式掲示板はたくさんの称賛メッセージで埋め尽くされていた。(追記:大阪('04/4/4)で放送されたときに寄せられたメッセージ)



先日、TBS「日本のこわい夜〜特別編」という番組が、ゴールデンタイムという難所でフェイク・ドキュメンタリーに挑戦していた(正確にはフェイク・バラエティか?)。タイトルに“史上最強心霊ドラマ”と明記し、常時“Jホラードラマ”というテロップ出しながら放送を続けていたが、作りがバラエティ番組なのでそちらの印象の方が強く、なかなかこれ全部を「ドラマ」だとは思って貰えないようだった。「いつドラマが始まるんだろう」と思いながら見てる人もいれば、明らかに不自然な箇所を「やらせ“くさい”」と言われたり*4、「心霊版藤岡弘探検隊だろ?」って楽しんでる人もいれば、「もっと真面目に怖く作れ」って怒ってる人も、「フィクションだって判っていても怖い」という人もいて、見た人の反応はほんとに人それぞれだった。これだけ視聴者の受け取り方がバラバラだと、フィクションっぽく見せるためのさじ加減も難しそうだ。あちらを立てればこちらが立たず…。結局は、あちらもこちらも気にせず、我が道叩きつけて視聴者についてこさすしかないけど。揺らいでるうちはこっちもどう見たらいいのかわからんし。



話しがまとまらなくなってきた・・・


結論。フェイク・ドキュメンタリーにフィクションだとわからせる演出が必要だ!と思わせてるのは視聴者の方…らしい。視聴者自身が意識を変えるか、作ってる方がいろんなもん作っていろんなもん視聴者に見せて経験値積まして、全体の意識を変えさせるしか、ないんだろうなあ。。。


*1:評判によっては地方でも数週間、数ヵ月後に放送される

*2:筒井令子なんてジャーナリストや彼女を有名にした埼玉の事件なんて聞いたことないとか、登場する女性が皆美人で生活感無さ過ぎ(笑)とか、素人の隠し撮り写真にしては構図がいいとか、元カレAさんの顔にモザイクかけなくていいのかとか。。。

*3:昨年発売された「クイックジャパンvol.57」でのインタビューより

*4:“くさい”じゃなくて“やらせ”と言い切れ(笑)。