Mちゃんと怖い話

小学校3,4年の頃、同じクラスにMちゃんという女の子がいた。読書家で、国語の成績もよく、いろんなお話をたくさん知っていた。


当時から怖い話が大好きだった私は、「なんか怖い話なーい?」と聞いては、漫画や小説から仕入れた怖い話をしょっちゅうきかせてもらっていた。年の割にとっても語りが上手で、役柄によって声色を変えながら、いつも臨場感たっぶりに聞かせてくれるMちゃん。有名な「青ひげ」の話も、本で読むより先に彼女から聞かせてもらった。


家が近かったこともあり、二人きりで帰る時はいつも怖い話。キリが悪いといっては彼女の家の前でしばらく立ち話なんてこともしばしばだった。私はほんとに彼女のしてくれる怖い話が大好きだった。


でも、さすがに毎日毎日怖い話をしていればネタのストックも底をついてくるわけで、いつしか彼女がしてくれる話は、既存のモノから自分で創作した怖い話に変わっていった。


もちろんMちゃんは「もうネタがなくなっちゃったので、今度は私が作った怖い話をするね」なんて野暮なことは言わない。「なんか怖い話してー」と聞くと、「どんなのがいい? 村が出てくるやつとか洋館が出てくるやつがあるけど」と、あたかもその話が既に存在してるかのように返してくれる。私が「じゃあ、洋館で」と答えると、洋館を舞台にした怖い話を即興で作ってくれるのだ。いま思うと、すごい才能。


彼女の創作話の主人公はいつも日本人の女の子だった。でも、物語の雰囲気はグリム童話系で、森と沼と一軒家と怪しげな老夫婦がよく出てくる。話のパターンとしては、主人公が怖い目にあう→逃げる→新たな土地でまた怖い目にあう→逃げるの繰り返し。話し終わるまでに大概1,2ヶ月かかる。途中の展開はいろいろと選ばせてくれることもあって、例えば「道を歩いて行くと、家が2軒建っていた。今日はここに泊めて貰おうと思う。ひとつは大きな洋館。もうひとつは誰も人が住んで無そうな小屋。どっちがいいと思う?」といった具合。ちょっとしたロールプレイングゲームだね。


10歳やそこらの子が作った創作話なんて面白い?と思うかもしれないけど、私はいつも引き込まれてた。他の子に「今日一緒に帰ってもいい?」と言われると「ああ、続きが聞けないやあ」と思って一瞬イラッとくるぐらい。


その後クラスが変わり、いまはもう全くMちゃんと連絡を取ることはなくなった。彼女が話してくれた創作話の数々も、いまとなってはほとんど覚えてない。


たった一人の人間に聞かせるためだけに作られた怖い話。しかも1回こっきりの使い捨て。。。今更ながらすごく贅沢なことをしてもらってたんだなあとありがたく思う。親子でもないのに(笑)。


Mちゃん、毎日毎日ありがとう。できればその才能が、いまもどこかで活かされてますように。