『イズ・エー is A.』を観た(@ユーロスペース)

公開終了間際の10月末に観てきました。客は40人ほどで、20〜50代ぐらいまで。女性が多かったかな。


映画の詳細は以前の日記を参照。んで、感想です。

イズ・エー [is A.] [DVD]

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大人であれば無期、死刑も当然な重大犯罪を犯した少年が、少年法に守られわずか数年で社会復帰。再び同じ犯罪を繰り返した時、更生のままならない少年に対し、親として何ができるのか、どう責任を果たすべきかを、被害者遺族・加害者家族、両面の立場から問うた作品。昨年は『カタルシス*1、『息子のまなざし*2と、凶悪犯罪を犯しながらわずか数年で社会に復帰してきた少年のその後を扱った作品が相次いで公開された。2作とも、ストーリーは全くのフィクションだったが、社会的に衝撃を与えた実際の事件をベースにしていたせいか、エンターテイメント性が極力排除された作りになっており、人によっては退屈で寝てしまうかもしれないが、本作に比べればリアリティという点において非常に説得力のある作品に仕上がっていた。一方『イズ・エー』は、「世間を揺るがすカリスマ爆破犯は14歳の中学生だった」という架空設定をもってきてるせいか、前述したニ作に比べると作りがフィクション然としすぎていて、娯楽作品としては見やすいが、個々のキャラクターが型どおりでいまひとつ物足りなかった。


とはいえ、内藤剛志が中盤以降に見せる熱演はものすごかった。彼が演じたのは加害少年の父。序盤は、ステレオタイプな役柄をいつも通りそつなく演じていたが、後半、息子(小栗旬)が再び犯行に及んだと知った時の咆吼からは、「こんな内藤剛志は見たことが無い」というぐらい彼の鬼気迫る熱演が作品全体を牽引する。


本作の主演・津田寛治が演じたのは、少年(小栗旬)が起こした爆破事件によって幼い息子を殺された被害者遺族。職業は刑事。わずか4年で出所した少年に対し「再犯するのでは?」と執拗につきまとう役だ。ところが右のちらしを見ても分かる通り、「内藤剛志主演で物語を作り直しちゃった方が良かったんじゃないの?」と思えるほど陰が薄い。内藤父さんの存在感、息子に対する想いの強さが型破りで圧倒的なせいもあるんだが、それ以上に、津田刑事が加害少年にむける憎しみの描写があまりに型どおりすぎるんだな。にもかかわらず、あくまで主役は津田刑事ということで話が進むため、なんだか見せたいモノと見せてるモノが一致してないような、どっちつかずで中途半端な印象が残った。


以下、ネタバレします。


ラスト、再犯した息子(小栗旬)を海に沈めて殺そうとするも力尽きる内藤父さんに代わり津田刑事が小栗少年に銃口を向けるわけだが、どうせなら内藤父さんの手で想いを遂げさせてやりたかった。嫌がる息子の頭を押さえ海に沈めるとき、謝罪、憐憫、愛情といった様々な感情が交互に浮き沈みするなんとも言えない表情をする内藤父さん。「ちっちゃい頃はあんなにいい子だったのに」「なんでこんなことになっちゃったんだろ」「私の育て方が拙かったのか」「ごめん、こらえてくれ」、、、いろんな言葉がその表情から聞こえてくる。すると、やはりどうしてもお父さんにケジメつけさせてあげたくなるわけで、志し半ばで果てられちゃうと「津田さんが主演なのはわかるけど、内藤さんにやらせてあげてくれよ」と切なくなってしまう。


しかも、得体の知れないモンスターとして描かれてた(故に父は殺す以外に方法はないと思い詰めた)小栗少年を、最後の最後で、おかしな思想にかぶれたよくいる犯罪者に見せて終わるのは不可解。「セックスしてる瞬間だけ生きてる実感が得られる」と話すデリヘル嬢(水川あさみ)とのやりとりからは、彼自身、生死の実感はもちろん、生きるとか死ぬとかってことそのものがよくわからず、爆破事件を起こすことによって自分に何らかの感情が起こるのを期待してるんじゃないかというふうに見えた。しかし、死を目前にして語る彼の犯行動機が「愚かな人間など地球からいなくなってしまえばいい」というのはあまりにもちんけで興冷め。たとえ強がりで吐いた言葉だとしても、そんな意味での人間らしさ、弱さは要らない。こちらが全く了解不可能な圧倒的彼方の存在として最後まで描ききってくれないと、父親の決断が意味をなさなくなってしまう。次から次へと犯行を繰り返し犠牲者を増やし続ける息子。なんとか彼の行動を止めたいが、法は彼を止めてはくれない。息子の考えてることがちっともわからないのに、どうやったら彼が救えるのだろう。どんな言葉をかけても息子には響かない届かない。もう為す術がない。だから、彼を殺そうと決めたのではないのか。法で裁けないのなら、法が止められないのなら、更正できない彼をこのまま野放しにするわけにはいかない。こんな怪物に育てたのが親の責任なら、息子に最後の引導を渡すのも親の責任。そう思い詰めての決断ではないのだろうか。


ネタバレ、終了。


そういえば『カタルシス』『息子のまなざし』『イズ・エー』、どれも<父と息子>の話だった。一昔前なら<母と息子>だったような気がするけど、気のせいだろうか。父親頑張れ!ってことなのかな。



*1:神戸の事件をモチーフに、出所してきた少年Aとその家族の、再生と贖罪を寓話的に描いた作品。監督は、TVドキュメンタリー出身で、引きこもり少年の再生を描いた『青の塔』で長編映画デビューを飾った坂口香津美監督。

*2:イギリスで実際に起こった少年2人による幼児殺害事件をモチーフに、加害少年との交流によって再生の道を模索しようとする被害幼児の父親を描いた作品。