ドイツの山師、グンター・フォン・ハーゲンス教授

現在、東京の国際フォーラムで絶賛展示中の『人体の不思議展』。実はこれには元ネタが存在します。本家はドイツ人の医学教授、グンター・フォン・ハーゲンスが主催する『BODY WORLDS』。ドリブルしてるバスケット選手、弓を射る格好のまま、まっぷたつにされて横開きにされたアーチェリー選手、腹を開かれて悩ましげなポーズをとる妊婦など、えげつない標本の数々で「教育か?見せ物か?」と物議をかもしながら、人体の素晴らしさを広く一般市民に伝えるべく、世界中を旅して回っています。



↓この人がハーゲンス教授その人。

期待を裏切らないルックスのこの人が、“プラスティネーション”という画期的な人体標本技術を開発し、“現代のフランケンシュタイン博士”という異名を持つドイツの山師ことグンター・フォン・ハーゲンス教授でございます。「注目を集めるためならなんでもするよー」とばかりに、いろんなとこで派手なパフォーマンスをぶちかまし、周囲の反感を買っては、黒い噂を流されたりいろいろと訴えられたりもしています。

■そもそもプラスティネーション技術とは、、、

肉体の体液および脂肪を、シリコーンゴム、エポキシ樹脂あるいはポリエステルのような反応的ポリマーに取り替えることで腐敗を止め、永久的に人体を保存する技術のことで、1977年、ハーゲンス教授によって開発されました。プラスティネーションされた標本は、乾燥しており無臭で、使用されるポリマーの種類により、ガスや光、熱で、形を自由自在に直すことができるのが特徴。詳しいことはこちらを参照してください。
 

■教授の経歴

ハーゲンス教授が人体に興味をもつようになったのは6歳の頃。血友病のため、頭部を切開し、6ヶ月の入院生活を余儀なくされた時にさかのぼります。初めて検死を見たのは17歳の時。それが決定的な体験となり、1965年にJena大学の医学部に入学。1968年、ソ連チェコスロバキア侵攻に抗議し東ドイツ政治犯として投獄されるが、2年後、西ドイツ政府が2万USドルを支払い自由の身となります。1973年、Lubeck大学で医学研究課程を終了させ、医学ライセンスを取得。1974年よりHeidelberg大学にて病理学および解剖の研究に務め、1975年に結婚。1男2女をもうけます。1977年、同大学解剖学部でプラスティネーション技術を発明、特許を取得。1978年にプラスティネーションのための会社BIODUR Productsを設立。1993年にBODY WORLDSを主催。1995年の日本開催を皮切りに、今日までウィーン、ソウル、ロンドン、ベルリンと世界行脚を続け1500万人以上を動員。1996年に中国の大連医学大学に移り、教授に就任。同年、キルギスタンの州立医学アカデミーにあるプラスティネーション研究センターの所長に就任。2001年、大連に民間会社Von Hagens Dalian Plastination Ltd.を設立。現在、200人のスタッフが人体標本の製造に従事しています。
【参考資料:経歴(公式)経歴過去の展示会履歴


■ハーゲンスが大連(中国)に作った人体標本製造工場

Von Hagens Dalian Plastination Ltd.(※画像あり)
工場内には200人のスタッフが645体の遺体相手に日々新しい標本を作り続けている。遺体は1500時間かけて標本へと生まれ変わる。現在、スノーボーダーアイススケート選手、ロダンの“考える人”などを制作中。

■BODY WORLDS in ロンドン(2002年)

2002年、ロンドンで展示会を行った際、ハーゲンス教授はいろいろなパフォーマンスを行っている。そのうちのひとつがチャンネル4と組んで行った、イギリス史上初の「公開検死ショー」だ。これはロンドン警視庁から「法に触れる可能性がある」と中止警告が出されたにもかかわらず、「捕まってもやりたい」と無視し、2002年11月20日、ロンドンのアトランティス・ギャラリーにて500人の群衆を前に強行された。そしてその模様はチャンネル4によって、深夜、テレビ中継されたのだ。


公開直前の会場の模様を映したニュース映像(ハーゲンス教授へのインタビュー映像あり)
http://news.bbc.co.uk/1/hi/health/2493291.stm
チャンネル4が生中継した「公開検死ショー」(※動画あり)
http://www.cbsnews.com/stories/2002/11/20/world/main530223.shtml


「公開検死ショー」をTVで見た視聴者がチャンネル4の掲示板に書き込んでいるのだが、概ね好評。客の不満はカメラワークの方にあり、検死中の手元を映さず観客の顔ばかり映していたヘタレ姿勢に批判が集中していた。


ハーゲンス教授への質疑応答
http://www.channel4.com/community/showcards/A/Anatomists_-_Von_Hagens.html
議論:検死医者ハーゲンスは起訴されるべきか
http://news.bbc.co.uk/1/hi/talking_point/2494771.stm
BODY WORLDSに関する有識者の意見
http://www.channel4.com/science/microsites/A/anatomists/opinions1.html

■BODY WORLDS in ロサンゼルス(2004年)

現在、BODY WORLDSは台北市(台湾)とロサンゼルス(アメリカ)で興行中だが、アメリカでの反応は以下の記事で知ることができる(翻訳済み)。
米国初『人体の不思議展』:批判や噂も(上)
米国初『人体の不思議展』:批判や噂も(下)

■ハーゲンス教授を巡るいくつかの疑惑

ハーゲンス教授の元に寄贈される遺体は、本人の生前同意が必須となっているが、寄贈されたいくつかの遺体について、本人の同意を得ることなく遺体の売買が行われた可能性があるとして、現在、その入手方法を巡りいくつか疑惑の目が向けられている。以下がそれにまつわる記事。


ハーゲンス教授、強奪された死体との繋がりを否定(2002年12月2日 ロシア)
http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/2535471.stm
http://www.buzzle.com/editorials/text10-16-2002-28344.asp
2000年10月、ロシアの医学校から56体の遺体と440の脳みそが、ドイツにあるハーゲンス教授の研究所に送られた。ロシア警察は、56遺体の身元追跡調査を行い、そのうちの8遺体が親族の許可なく強奪されたものだとする調査結果を発表。強奪された8遺体の親族は、火葬の際に遺体をすり替えられ、ニセモノの遺灰を渡されていたのだ。ロシアの法律では、親族のみつからない、または親族が感心を示さない遺体を研究目的に使用することを可能としている。教授は「送られてくるモノに名札が付いている訳じゃないので、それが誰からのものなのか私にはわからない」と答えた。送られた遺体はハーゲンス教授の元で標本にされ、再び医学校に送り返されることになっていた。


ハーゲンス教授、中国人死刑囚の使用を否定( 2004年1月22日 ドイツ)
http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/3420483.stm
ドイツのシュピーゲル誌が、人体標本の一部に頭蓋骨に銃痕のある2標本の存在を指摘し、「中国人死刑囚の死体を使用してる*1」と報じたことについて、ハーゲンス教授はそれを否定。ただし、自分たちに知らせずに死刑囚の遺体が寄贈された可能性は否定できないとして、疑いのある7遺体を返却するとした。

■訴えられてた

ハーゲンス教授、学位の乱用で有罪判決を受ける(2004年3月4日 ドイツ)
http://news.bbc.co.uk/1/hi/entertainment/arts/3532467.stm
ハーゲンス教授は1974-96年までの間、ドイツのハイデンベルグ大学で働いていたが、教授になったのは中国・大連の医学大学。ところが、あたかもハイデルベルグ大学で教授の学位を取得したかのような印象を与え続けたとして同大学から告訴されていた問題で、有罪判決を受け、9万6千ドルの罰金を課せられた。

■自らの肉体を永久保存したがる人々

現在、6000人近い人間がハーゲンス教授に、「自分が死んだらその遺体をプラスティネーションしてくれ」と肉体提供を申し出ているのだが、実はクローニングのカルト・リーダーも例外ではなかった。
http://www.ananova.com/news/story/sm_735861.html?menu=news.scienceanddiscovery.genetics
リーダー曰く、「博物館に展示されてる昔の身体を、クローンとして生き続けてる別の身体から眺めるんだ」とのこと。なるほど!

■現在の活動

現在ハーゲンス教授は、テレビ会社Mentorn Productionsと組み、死後「スーパー人間」として解剖・再建されるべく、自らの身体を寄贈し、その全過程をテレビカメラで撮影することに同意してくれる末期患者を捜している。
教授が提唱した「スーパー人間」とは以下の通り。

  • 内臓をよりよく保護するために肋骨の数を増加させる。
  • 継ぎ目の上の着用を減少させるため、後方へ曲がる膝を作成する。
  • 食物が誤って気管を下らないよう、気管および食道を再整理する。
  • 2つの心臓あるいは冠状動脈の改造をする。
  • 格納式の陰茎を作る。

※Excite先生の翻訳が意味不明な文章(2番目とか)は原文をあたってください。

ハーゲンス教授は「この人は画期的な人間になるだろう。私たちが今後、遺伝子工学を使用して何を達成できるかを示し、より健康で有能で長生きできる身体へと道を拓くだろう」と言った。寄贈者の身体は、死後9か月以内に完全に改造され、「スーパー人間」として公開される。


これに名乗り出る人がいたらすごいなー。みんなが自分が死ぬのを今か今かと待ってる状況って。。。 あなたはなりたいですか? スーパー人間。



もちろん教授も死後プラスティネーションされたいそうで、いったいどんな改造を己に施す気なのか、これは見物ですね。やり方はともかくとして、「死は隠すものじゃない」という考えには頷けるところもあり、“人体好き”な教授が今後どのような活動を展開してゆくのか、エスカレートしすぎてマッド・サイエンティスト化が進むのか、その動向を見守りつづけたいと思います。


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*1:中国では頭を撃ち抜くという処刑方法がとられている