「人体の不思議展」に行く(@国際フォーラム)

今年始めに行きそびれた「人体の不思議展」。ついに行ってきました。子供と女性だらけっていうのは意外でしたが、予想通りの混み具合。2時間ぐらいはいましたかねえ。子連れのお母さんが、「ねえねえ、これって本物?」って聞いてくる我が子に、「ううん、ぜーんぶニセモノ」って言ってたのには、思わず「ウソこけ!」とツッコミ入れたくなりましたぞ。お母さん、子供にも真実を。


(※以下、グロいのが苦手な人は、リンクをクリックするのはやめた方がいいかも)


公式サイトに、ある程度展示物が掲載されているので、実物を目の当たりにしてもそれほど衝撃的なことは無かったけど、なんかね、最近の特撮技術も進歩してるじゃないですか。それを考えると、質感がプラスチックなだけに、まつげやうぶげまで再現された<ものすごく精巧な作り物>にしか見えなかったり。暗さや厳粛さなんてモノは皆無で、これが本物の人間なんだと思いながら見ても、可哀想と言うよりは、「なんでおれこんなかっこうしてんのかなあ」って心の声が聞こえてきそうで、ちょっと切ない感じ。だってなあ、献体した人は医学のためにって高尚な意志があったのかもしれないけど、作ってる方はどう考えても楽しんでるもん。見せ物か教育かと問われたらちょっと微妙。ただ、完全に見せ物とも言い切れない。実際私も、その時間の大半を、標本と自分自身の身体を見比べながら「ああ、ここがこうなってこうきてるのかあ。なるほどー」って感心しながら見てたし、医学部や看護学校の学生さんらしき人もたくさん来ていて、彼女らの会話なんかを聞いてると「ああ、医療教育に役立ってるんだな」って気にもなる。しかし、いくつかの標本に関しては、どう考えても「そこまでやる必要ないんじゃないかい?」って首をかしげたくなるのも事実。グラビアアイドルみたいなポーズをとらされてたり、展示の最後の方には、「どっから仕入れたの?」と問いたくなるような生後3ヶ月から10ヶ月までの胎児の標本や、こんな感じの変形ロボみたいなやつ、それにこんなやつも出てくるわけですよ。しかもお土産コーナーには、人体標本をオシャレに飾って撮影したポストカードに、一番「えげつないなあ」と感じた<縦方向開き人体標本>をキーホルダーにして売ってたりするわけで、笑っちゃうぐらいの商売根性。おみそれしやした。


まあ、でも、標本に素手で触れるコーナーや脳みそを持たせてくれるコーナーもあったりして、なかなか出来ない体験が出来るのは事実なんで、冥土の土産に一度ぐらいは見ておくのも悪くないんじゃなかろうか。1500円分の価値はあると思う。



でも、一番行って良かったなと思ったのはこれだな。会場では「脳年齢」と「骨密度」の測定を有料(1000円)で行っていて、そんな検査、今までに受けたこと無いので、これは非常に有意義な催しだった。実は、自分は大の牛乳嫌いで、飲むと吐き気をもよおすから小学校卒業以来口にしたことがない。乳製品は好きだけど、夏場、食欲の無い時にヨーグルト食べるぐらいで、定期的に摂取してるわけじゃない。つまり日常的にカルシウムをほとんど取ってないんですよ。しかも慢性的な運動不足。絶対、骨粗鬆症って言われる自信があったので、ようやくこれで年貢をおさめられる、運動とカルシウム不足の不健康な日常から脱出する願ってもないチャンスだと思って飛びついたわけです。


料金は後払いということで、番号札を渡され待合室へ。中には既に10人ぐらい待っていて、全て女性でした。骨密度の検査の方が時間がかかるということで、まずは脳年齢の測定から。測定に使われるのは「脳年齢計」という機械(こちらが現物)。これは、ゲーム感覚で、タッチパネルを押しながら楽しく脳年齢が測定できるというしろものです。性別を選び、年齢を入力したら、練習を1回して、いよいよ検査スタート。1〜50ぐらいまでの数字が、バラバラな配列で画面に表示されるので、そのうちの半分、1〜25までの数字を、1から順番に探してタッチしてゆくだけ。これがなかなか緊張しましたねえ。検査は2回行われ、2回目は1回目よりちょっと難しい。25までの数字をタッチするのは同じなんだけど、タッチするたびに番号の配列が変わる。これら2回の検査における探索時間から脳年齢を割り出すわけだけど、結果はジャジャーン! 「26歳」でした。実年齢より5歳も若い(嬉)。総合アドバイスは以下のとおり。

人並み以上の若さを保っている脳です。ささやかながらも地道に脳を使うことを心がけていらっしゃったのでしょう。その結果、確実に脳の老化は抑制されているようです。今までの脳のトレーニングを維持しつつ、さらにハードなトレーニングを心がけてください。今以上に脳機能が活発になる可能性があります。積極的に頭を使おうとするあなたのその姿勢を維持してください

えっと、、、別にトレーニングなんてしてないんだけど(汗)。たまに気分転換にトランプで「ひとりスピード」とか「ひとり神経衰弱」とかしてたのが良かったのだろうか。しかも「さらにハードなトレーニング」って・・・何? どうやるの? フォローなしかよ! …ま、いっか。


好結果にルンルン気分の中、次はいよいよ、恐怖の骨密度測定へ。こちらは結構時間がかかるので、順番待ちに20分。結果はやらずとも分かってるので、70歳の骨密度とか言われたらどうしようとドキドキしたんだけど、意外にも「平均値より6%も骨密度が高い」という結果に。・・・謎だ。いったい自分はどこからカルシウムを摂取してるのだろう。偏食家だし、口にしてる健康食品と言ったら「納豆」ぐらいだぞ…。とりあえず健康体だと言われたので、深く考えるのはよすことにした。



展示の話に戻すけど、実は、どうしても気になることがある。もしかしたらパンフには載ってたのかもしれないが2500円もするので買ってこなかった。展示に添えられた説明を読んでも解明されない謎・・・。それは、「どうやって作ってるのか」ってことなんだよね。もちろん、プラストミック加工の説明は読みましたよ。でも、肝心な部分がはしょられてるじゃないですか。やっぱり、元・特撮オタとしては、標本自体より、制作過程の方がずっとずっと気になるわけで(その目線で見て「作ってるやつは絶対楽しんでるね」と感じたわけだし)。でね、今回新作展示と題して<血管の全身標本>なるものが展示されてたんですよ(これ)。説明書きには「血管にプラスチック樹脂を流し込んで固めて取り出した」と書いてあったんだけど、ここで疑問その1。この標本は毛細血管まで見事に取り出されてるわけですよ。すなわち、固めた後にナイフ等で肉をそぎ落として血管だけ取り出すなんて芸当は絶対に無理。となると、プラスチックは残してタンパク質だけ解かしてくれる液体に浸けたのかなあと想像するんだけど、真相はわからない。そして疑問その2。そもそも、どうやって全身の血管に樹脂を流し込んだのか。だって、生きてる人間ならともかく、死体なんだから血流は止まってるわけじゃん。それなのに、どうやって毛細血管まで樹脂が流し込めるの? …不思議だ。


そして、気になることその2。会場に入ってすぐのところにおじいちゃんの標本があるんだけど、残り10体ぐらいは見た感じ全て20−30代の若い人。しかも見た目は、故意に加工されてる部分を除けば五体満足の状態。どうやってこんだけの見た目健康そうな若い献体者を集められたのか? …不思議だ。



人体をポリマー樹脂で固めて永久保存する手法は、1977年、ドイツのグンター・フォン・ハーゲンス教授によって開発された。教授は現在までに300体近い標本を作り、世界各地を興行して回っているわけだが、それが今回日本に来たのかと思ったら違うんだって。


ちなみに↓こちらが本家。現在は台北市(台湾)とロサンゼルス(アメリカ)で興行中とのこと。
Gunther von Hagens' BODY WORLDS


本家サイトにも「日本と北京で興行されてる人体標本展には、うちで作った標本は含まれてないよ」と書かれてあるとおり、今回日本で行われている「人体の不思議展」は完全日本オリジナル。もちろんハーゲンス教授の名前は、「人体の不思議展」展示場にも日本の公式サイトにも記されてない。そもそも保存技術の名前が違う。本家はこの技術のことを<プラスティネーション>と呼んでいるが、日本のは<プラストミック>。でも、展示方法や加工センスはまんま同じだから、どこかではつながってるんだろうな。
(追記:この記事によると、日本で展示されているのは、「医学研究の進歩のため」にと中国人から寄贈されたものらしい。何故中国人かって? 実は大連にハーゲンス教授の人体標本製造工場があるのだ。。。)


サイト見ただけじゃ伝わりきらないかもしれないけど、ぶっちゃけ本家はすごいです。「人体の不思議展」は<医療教育のため>という大義名分がまだまだ通るけど、「BODY WORLDS」は学術展示というより見世物要素の方が圧倒的に強い。人体パビリオンって感じでエンターテイメントしてるし、妊婦標本なんてえげつないものまであって、これじゃあ抗議行動が起こるのも無理ないだろう。公式サイトには無難なやつしかおいてないが、他のサイトにはこんなのもあった。


だいたいねえ、このハーゲンス教授ってのが、非常に怪しい(笑)。これが教授の写真なんだが、見た目からして“胡散臭い山師”(笑)。ちなみに教授の上に飾ってあるのは、飛来したエイリアンの標本、、、ではないです。これなあ、模型で作りたいってならわかるけど、本物の死体目の前にして「よーし、パパ、次はエイリアン作っちゃうゾー」なんて、常人の発想じゃありえないっすよ。もはや単なる<素材>だね。そのうち、鳥人間とか半魚人、クモ女ぐらいは作るんじゃないだろうか。


で、この教授、調べてみると非常に面白い。彼自身もそうだが、彼が起こした行動とかそれによって巻き起こった論争とか、面白エピソードが次々と出てきて記事を追うのが楽しくてしょうがない。取材本とか暴露本とか出てないのかなあ。ドキュメンタリーでも再現VTRでもいいよ。誰か取りあげてくれー! すんげー、面白いって、このおっさん。


そんなわけで、ドイツの山師、グンター・フォン・ハーゲンス教授については、また後で。。。


※「BODY WORLDS」関連記事
『人体の不思議』展で楽しく死体と向き合おう(上)
『人体の不思議』展で楽しく死体と向き合おう(下)