湯浅政明監督、スタジオ4℃の田中栄子プロデューサー、スペシャルゲストとしてアニメーション監督の杉井ギサブロー氏*1の3名を迎えたトークショーが最終回上映前に行われた。
作品が作品だし、当日は直前まで雨が降ったりやんだりの天候だったため、「入りは3分の1ぐらいだろうけど、熱心なファンがきてくれてるんだろうし、その人たちを相手に話すんならまあいいかと思いながら来た」と言う杉井ギサブロー氏は、満席の会場に「感動した」と驚きと喜びを噛みしめておりました。「アニメというのは長年やってるとビジネスやら余計なモノがくっついてどんどんまとまってくる。それを破壊するような作品をやりたいと思うが、引き受けてくれるプロデューサーがいない。長編を作って世に出す場合、資金が回収できないと次につなげられないからだ。最近のアニメは手間と時間とお金をかけて作られた作品がいっぱいあって、確かにそれで素晴らしいものができるんだけど、正直ちょっと見飽きてた時期にこれを見せられ、ビックリした。普通ならこっちが作りたいと思っても、名乗りを挙げてくれるプロデューサーなどまずいない」とプロデューサーの田中氏に賛辞を送りつつ、映画化を思い立った経緯を問いかけると、「初めて原作を読んだ時にどうしても映画化したいと思った。でも原作の画がアニメにするには非常にラフだし、キッズ&ファミリーが主流なこの世界において、これを映画化したいんですと言っても、みんな「面白そうだね、出来たら見せてよ」というだけで誰も相手にしてくれなかった。監督を頼むなら湯浅さんと思い原作を見せたら乗ってくれ、まずはそこがスタートとなった」と答える田中氏。頼まれた湯浅監督は「原作を読ませて貰って、これは面白いなと思ったけど同時に難しいなと思った。ただ、最近のアニメは人物をきっちり書いて動かすことに専念しすぎて窮屈だったので、ラフな画で勢いだけで見せるってのは面白いと思ったし、逆にそっちの方がみんなも観たいだろうと思った。いまは普通のアニメ作っても客が入らないから、こっちの方が人も入ると思ったし」と語る。しかしそううまく事は運ばず、「湯浅監督にいくつかスケッチを描いて貰ってプレゼンしたけど、画がラフでシンプルな分、止まった画では普段のアニメーションを見慣れてる人に魅力を伝えられず、誰もお金を出そうとは言ってくれ無かった。それなら、とりあえず作ってしまえ、と。出来上がったモノを観れば絶対気に入るだろうと思った」と語る田中氏。
実写との合成になった理由について、「劇場でかける際にセックスと暴力がひとつのネックになる可能性があった。アニメは実写よりレイティングが厳しい。当初はもっと実写部分を増やして暴力描写とかでひっかかったら「これは実写です」と言い張るつもりだった」と答える田中氏。実写の演出も湯浅監督が行ったそうで、スタッフは、『下妻物語』のスタッフチームにお願いしたそうだ*2。初めての実写演出だったが、湯浅監督は素材のひとつだと思って演出にあたったそうだ。でも、実写の演出は初めてだったので、優しいスタッフばかり集めて貰ったと言ってた。また、アニメの現場だとたとえ監督といえども作画チームとは対等の立場に置かれるんだけど、実写の場合は「監督!」って感じで周りが接してくるので、普段はヘラヘラしてるけど実写の現場では自然と腰に手がいってしまうと語った。
ギサブロー氏が「1カット1カット、非常にクオリティが高い」と誉めると、「皆さんそう言ってくださるんだけど、当初自分はもっとチープな感じにするつもりだった」と答える湯浅監督。ただ、4℃のスタッフは新しいことや挑戦的なことが好きな人たちが集まってきてるので、やってるうちにあれもやろうこれもやろうとどんどん密度が濃くなり今のような作品に仕上がったとのこと。だからそう思って貰えるのはスタッフのおかげだと。また原作にすごい勢いがあるのでそれは大切にしたかったし、変にまとめなくなかったのでそこは気を付けようと思ったとも言ってた。それに対し「だったらもっと荒っぽくてもいいかなと思ったんだけど」とギサブロー氏が言うと、「元々アニメーションと言う作業自体、行程を重ねる内に段々ときれいにしてゆく作業なので、そこが難しいところですよね」と語る湯浅監督であった。
その後、劇場スタッフの「そろそろお時間です」の言葉もきかず『マインド・ゲーム』を誉め倒すギサブロー氏にハラハラしながら、なんとか田中氏が強引にまとめてトークショーはお開きとなった。