『片目だけの恋』『ラブ キル キル』を観た(@ユーロスペース)

観てきました。雨ということもあって、前回の『ユダ』『ともしび』組よりは若干客足少な目。『片目だけの恋』の客層はほぼ男性で30〜50代、入りは20〜30人ぐらい。『ラブキルキル』はトークショー付きということもあり7〜8割方の入り。7:3の割合で男性の方が多く、20代の女性と30〜50代の男性で占められておりました(日本映画専門チャンネルのご招待客も何人か含まれてます)。


映画の詳細は以前の日記を参照。んで、感想。


『片目だけの恋』(監督・渡辺護
4作の中で一番低い評価つけちゃったけど、一番の理由は役者の芝居が肌に合わなかったこと、それに尽きるかな。ただ、主演の小田切理紗は、演技自体まだまだだけど圧倒的ビジュアルがそれを補って余りあるといった感じ。彼女のシーンでは何度となくぞわぞわーっと鳥肌が立ちました。とにかく目つきがすごい。エロス番長随一の“魔性系”。後ろ手にして横たわり、初めてお兄さん(田谷淳)を誘惑するシーンで見せる上目遣いなど、ウブな小娘の表情が一瞬にして魔性を露わにする様は圧巻でした。彼女が出てると集中して見れる。しかしそれ以外はどうも退屈。芝居がちぐはぐに感じいまいちのれない。深紅のネクタイや雨だれのアップ、ユカ(小田切理紗)とお兄さんが重なり合うラストショットなど、ハッとするカットも非常に多いんだけど、全体的な印象はマイナスになってしまいました。


『ラブ キル キル』(監督・西村晋也
これは面白かった。笑えて笑えて、でもそれだけじゃ終わらない。あらすじの感じでは"ドタバタLOVEバトル"って印象だったけど、いい意味で裏切られた。バランスがすごく良くて、予想の上を行く飛び道具を出してくるから全然飽きない。


津田寛治が演じるのは、真面目なハローワーク職員、実は洋ものアダルトビデオマニアという皆川聡。家には洋ピンポスターが何枚も貼られ、棚にはビデオがみっしり。趣味はそれだけ。もちろん彼女無し。友人もいない。日々、痛みへの鍛錬を怠らない男。おかしなクセも持つ。冒頭では延々と皆川の偏執ぶりが面白可笑しく描写されるのだけど、演じる津田寛治は見るからにノリノリ。役作りはさぞや楽しかったんだろうなあと思う。台詞や動作の積み重ねによって、キャラクターが丁寧に肉付けされてゆき、ただの危ない変態野郎に、一途で単純、横柄なんだけどどこか憎めないというキャラが定着してゆく。中盤あたりになると偏執行為も陰をひそめるため、本来の性質をすっかり忘れて普通の男のような気で観てたら、ラストで…(きゃほーい!)。ハマリ役です。


そんな変態男に一目惚れされるマイペースでちょっと男にだらしない女・前嶋サユリを演じるのが街田しおん。これは驚いた。「わたし、脱ぐとすごいんです!」という言葉は彼女のためにある。男女問わず、一度は拝んでおくべき。一見スレンダーなのに、出るとこ出てて、「それは胸なのか、脇の肉なのか」なんて愚問を挟む余地が無い。しかもフェロモン・ボディとはよく言ったもんで、現役AV女優である愛葉るみの方が健康的な裸体に映る。この肉体と、しなやかな仕草、なにか抗し難い力を持った穏やかな声色が浮世離れしたキャラクターを根底から支えていて、男も女も、みんな彼女の美貌と色香に惹かれてくのは必然だね。あの女神オーラにあてられたら無理もない。また、撮り方がうまくて、皆川の前に初めて現れるシーンでは、彼女だけ明らかに世界が違うの。津田さん、かなりわかりやすい“一目惚れしました”演技をみせてるんだけど、大袈裟でなく受け入れられる。椅子に座ってるだけなのに神々しい。ただ、最後に普通の人になってしまうのが残念。怯えとか怒りとか全て超越していて欲しかった。


大人ふたりと対照的なのが、10代のふたり。皆川がポルノショップで知り合った唯一の友人・ナオ(愛葉るび)とサユリの弟・コウ(松田祥一)。奔放で自由気ままなサユリ、一途で判りやすい皆川に比べると、二人ともあまり内面を見せない今どきの冷めた若者。


愛葉るび演じるナオは、高校も行かずぷらぷらしてる女の子。いつも連んでた友人が男と駆け落ちしてしまったことから、皆川に付きまとうようになる。撮り方のせいもあるんだろうけど、なんか野良猫みたいなんだよね、この子は。いつも歩いてるの。寂れた町中を歩いて歩いて、気になった相手を見つけるとつかず離れずついてゆき、勝手に家に上がり込む。相手も特に拒否するでもなくその状況を受け入れてる。何をしたいとか、どう思うとか、自分の気持ちや感情をあまり口にしない。ただじっと、何かを思いながら見てるだけ。ついてゆくだけ。元々は皆川に興味をもってつきまとってたのが、前嶋サユリの身辺調査を頼まれたのをきっかけに、サユリの無防備な色香にやられ、三角関係の一角を担うことになるナオ。彼女の存在は話が進むにつれ大きくなってゆき、終わってみると、物語の主人公はナオだったように感じられた。彼女はサユリへの気持ちを言葉で伝えたり誰かに吐き出そうとはしない。それ以前に、サユリへの気持ちがなんなのかを掴みかねていたのかもしれない。全ての感情はひとまず内に溜め込み、もやもやした感情に思い悩む。そして、なんともいえない寄る辺ない瞳でじっと見つめ続ける。サユリも皆川もナオの想いには気付かない。二人はどんどん親密になってゆく。気持ちがいっぱいになってどうしようもなくなったナオは、全速力で走って走って、想いをどこかにぶつけるでもなく、ただ走って走って。決定的な気持ちに気付いた後に彼女が取った行動で、事態は最悪の方向に転がってゆく……。AV作品に比べたら10分の1も脱いでないだろうけど、ファンなら観に行っといた方がいいと思う。


サユリの弟・コウを演じる松田祥一は、街田しおんと並ぶと、怪しげな関係を勘ぐりたくなるような美しい姉弟という耽美な設定にピッタリ。姉のことが好きなんだろうけど、近づいてくる皆川と対決することなく途中でフェイドアウトしてしまうため、この弟を物語上どういう位置付けにしたかったのかがいまいち分からなかった。合い通じるところがあるのであろうナオとの関係も、結局は友情止まり。


脇にいろいろなキャラクターが出てくるんだけど、みんないいんだよねー。可愛らしい。ポルノショップのおじさんも、ヒッピーカップルも、コンビニの店長も、すぐ下痢しちゃってなかなか就職が決まらない兄ちゃんも。一番好きなのは、コンビニのバイトくん(三浦哲郁)だったりするんだけど、バイトくんがどうこういうより、コンビニでの不審な行動を店長に咎められキレる皆川を驚きの目でみつめる三浦哲郁の表情がとってもいいんだ。彼はこの表情を見せるためにここに存在してると言っても過言ではない(笑)。


物語のラストはアンハッピーエンドなんだけど、なんでもない日常に戻っていつもと変わらず町中を歩きつづけるナオを見てると、「変わってるけど憎めない、そんなやつらがいっぱいいる街だから、そのうちいいこともあるさー」なんてポジティブな気分に落ち着いてしまいました。


しかし『ラブキルキル』というタイトルはどうだろう? あらすじのイメージもちょっと違うし。自分がセンチメンタルに受け取りすぎなのかもしれないです。