『SEXTET 梅心中』を観た(@聖蹟桜ヶ丘)

4/17(土)にTAMA CINEMA WAVEが主催する若手監督の自主制作短編を集めた『REMIX』という上映会に行ってきました。詳細は以前の日記を参照されたし。全体的にどれもそれなりに面白かったんだけど、その中の1本で「おいおい、これは出すとこ間違えてるだろ」ってぐらいすげーいいのが1本あった。それが伊刀嘉紘監督の『SEXTET 梅心中』


『梅心中』(連作短篇集「SEXTET」より)


【監督・脚本】伊刀嘉紘【出演】粟田麗/宮本大誠
【撮影監督】永野敏【音楽】クロノイ・プロトイ【製作】西田敬
34min/ハイビジョン/2003年


【STORY】女は両腕を失い、姉の介護のもとで暮らしている。男は両腕を骨折中の便利屋。 雨の日に女は心中を依頼する。梅コースで。「死ななくちゃいけない理由」を説明するの は難しいが、「生きてないといけない理由」を探すよりは易しいこと。腕を使えない二人はぎ こちなく愛しあい、やがて希望が芽生え始めたとき、世界に異変が起こった...。


作品のリンク先に書かれた主催スタッフからのオススメ文にも興奮がにじみ出てるけど、客席にいた初老のおっちゃんも質疑応答で「『花と蛇』の10倍良かった!」と絶賛し次作への期待を熱く語ってたぐらい。自主制作なのにハイビジョン撮影ということで映像に驚嘆してる人もいて、このまま商業で今すぐ売り出せよってクオリティ。


画的に陳腐、というか自主制作っぽい雰囲気を漂わせているのは、宮本大誠の“両腕に包帯巻いたビジュアル”ぐらい。演出は映画よりドラマっぽいかな。このまま深夜に流しても評判になると思う。ディビジョン1『勝負下着』より全然いい。脚本がいいってのもあるんだけど、とにかく主演の二人が、どうしたの?ってぐらいに魅力的でぐいぐい引き込まれた。粟田麗、ただの綺麗なお姉さんかと思ってたら、小悪魔的にかわいいっ。私も麗ちゃんに振り回されたい(爆)。常に投げかけられる挑発的な視線、でも、媚びたところがなくどこか寂しげ。孤独な女性が最後にちょっと甘えに来た相手が<便利屋>である宮本大誠なんだが、大金を積めば何でもしてくれる、いわば金で買った男。彼女が大金と引き替えに男に頼んだのは「心中」。もちろん本気じゃない。両腕の無い彼女は、食事はもちろんトイレで用を足すにも、一人ではできない。いつも姉の手を借りていた。そんな生活から姉を解放し、自分も解放されたい。孤独な便利屋さんは、強がる彼女の奥底に隠れた気持ちに気づき、最後のお遊びにつき合った。「お客さん、松竹梅とありますが、どのコースにされますか?」という問いかけに「梅で」と答える彼女。彼女の要求に次々と応える便利屋さん。それを演じる宮本大誠は、『夜を賭けて』ともCMのイメージとも違い、包容力のある男を見事に演じている。いつになく色気があって男前。むむ。惚れました。ファンになったかも…(照れ)。チンピラじゃなくこういうハードボイルドな役柄も似合うじゃないか。新発見だ。声や佇まいが非常にマッチしていて、これはかっこいいっす。


公式サイト探したら、二人同じ事務所なのか。しかも所属俳優は二人だけ。…ん? どういうこっちゃ。調べてみたら、宮本大誠が昨年末、自ら立ち上げた事務所*1粟田麗が移籍してきたご様子*2。監督はどうしても彼女にこの役をやって欲しかったらしく、ダメもとでお願いしてみたけど多忙でスケジュールの都合つかず「1週間後に仕事が少し空くから、その時でも良ければ」ってことで急いで撮影の準備をしたらしい。栗田麗が自主制作映画に出るのはこれが初めてとのこと。彼女の事務所移籍が撮影の前なのか後なのかは不明。この作品がきっかけで移籍したのか、移籍後の仕事がこれなのか…。12月に一度上映してるようだから、移籍前の仕事なのかもしれない。どちらにせよ、監督、役者、作品、皆にとってものすごい良縁だったのは間違いない。DVDになったらプロモーション用に配りまくるがよろし。


本作は元々、音楽を担当したクロノイ・プロトイの発注により作られたもの。民族音楽やアカデミックな音楽をやってるグループで、自分たちの音楽にエロティックな映像を付けて欲しいということでこのような雰囲気の作品に仕上がったらしい。タイトルの「SEXTET」は“六重奏”の意で、最終的には本作を含めた6話オムニバスになる予定。上映は今回で2度目だが、1度目はスクリーンを3つ用意し、3画面で同時に映像を流しながらその前で生演奏を行ったとのこと。残りの作品は2年ぐらいかけて撮り上げる予定。音楽もこれからで、映像の製作とほぼ同時進行で作られるようだ。伊刀監督のこれまでの作品は、トリウッドで上映されてるようなので、本作や残りの作品もそのうちかかるかもしれない。全話観れる日を心待ちにしています。6話オムニバスと言っても緩いつながりは持たせてると言うことなので(ラストの展開が唐突なのはそのせいらしい)、楽しみ。ハイビジョンにしたのは、単に監督が“大画面好き”だかららしい。それに耐えうる映像を作るにはってので選んだのがハイビジョンなんだと。ラストにCG合成で雨だれが画面上に流れるんだけど、ほんと綺麗で、日常から外れたなんともいえない不思議な雰囲気を醸し出しています。


上映後に行われた監督座談会では、トリウッドの大槻館長やプラネット映画祭の河野代表も加わり、短編映画に関するいろいろと興味深い話が聞けたので、そちらのレポはまた後日・・・。(追記:と書いておきながらそのままだな)


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HDIndiesにおける『SEXTET 梅心中』企画書



*1:芸能プロダクション「ライディーン」。昨年末、宮本がそれまでいた事務所「ユマニテ」マネージャーと共に独立して作った事務所。

*2:元々は宮崎あおいも所属してるヒラタオフィスに所属してた。この事務所、所属タレントたくさんいれど、あおいちゃんと兄ちゃん(宮崎将)以外よく知らない。粟田麗の移籍は事務所的に結構イタイのでは?