CX『犬神家の一族』で炸裂した星護節

稲垣吾郎がかの有名な名探偵・金田一耕助に扮することとなったCX『犬神家の一族〜誰も知らない金田一耕助〜』*1を観た。


脚本は、以前テレ朝土曜ワイド劇場で、稲垣吾郎をかの明智小五郎にすえた明智ドラマを2本*2撮ってる“エコエコアザラク佐藤嗣麻子。そして演出は、昨年、草なぎ剛主演『僕の生きる道』で「死」というテーマをお涙頂戴になりすぎない静かな演出で撮りあげ評判を博した星護である*3


告白すると、星護*4というのは私のテレビ人生に多大なる影響を与えた人物である。私が共同テレビ好きになったのも、ドラマを観るかどうかの取捨選択に制作スタッフを気にするようになったのも全ては星さんがきっかけ。ただ、ここ数年は『僕生き』も含め大人向けの抑えた演出が自分の好みと合わず、ファンを上がりかけていた。そこへ来ての『犬神家の一族』である。


星護といえば、以前に陣内孝則版『明智小五郎シリーズ』*5を撮っていたので、それを観てる人は「星護が横溝をやる」と聞いた瞬間、薄々察するところはあっただろう。


何を隠そう、星護という人は、CX『世にも奇妙な物語』等にて都会的で不条理な恐怖演出なんぞはみせているものの、根本的に横溝や乱歩世界に欠かせない“閉鎖的などろどろとした血と情念渦巻くおどろおどろしい怪奇怨念エログロの世界”なんて暗黒パワー全開なものは全く描くことが出来ない人なのだ(爆)。ポップでテンポの良いカラッとした演出が持ち味であり、日本人特有のじめっとした感性は全くもって持ち合わせていない。基本的にこの人は“性善説”の人なんだろうな。闇を内包する人は描けない。


金田一ものは今までに何作も作られてるけど、『犬神家の一族』と『八つ墓村』、この2作に関しては、市川崑版『犬神家の一族』、野村芳太郎版『八つ墓村』が私的にはベストであり、この演出を越える作品を作るのはもはやほぼ不可能だと思っている。だから新作が作られる場合、演出でこれを越えろという意識ははなからなくて*6、もっぱら役者を楽しむのが常だったりするのだが、今回は演出が星護と言うことで当然気にせざるを得ない。


結論から言うと、久々に往年の星護節全開演出で個人的には大満足。映像も、美術さん衣装さん撮影部の頑張りにより、セットといい色遣いといいいつまでも観ていて飽きないほどに美しい(『乱歩R』スタッフよ、少しは見習いなさい!)。もともと昭和の香り漂う家屋や車、小道具や調度品を見てるだけで心癒される質なので映像にはうっとり。もちろん、美しい加藤あいちゃんのお顔と、まるで皮をひんむいた猫のような三田佳子さんの鬼気迫るお顔にもうっとり。そして案の定、星護にドロドロ演出は無理だった。少しぐらいは挑戦してみるのかと思ったけど、微塵もなかったね(笑)。もしも暗黒面が垣間見られる瞬間があったとしたら、それは脚本の佐藤嗣麻子三田佳子のおかげと思って間違いないだろう。乱歩の場合は、“少年探偵団”があるから暗黒面を見せない演出でも良かったんだけど、さすがに横溝は多少は欲しかった。三田佳子の怪演に救われたね(救いきらなかった部分もあるけど)。


今回、オリジナルストーリーとして冒頭に“名探偵・金田一耕助の誕生秘話”*7なるものが挿入されていたんだけど、1940年代のアメリカが舞台と言うこともあり、この人の演出にみられるテンポの良さ、コミカルな動き、オーバーアクション、演技とシンクロした大げさな音楽などは無声映画の影響なんだろな、ということをこれ観て改めて確信した。字幕のフォントに拘るのもそのせいなのか(単に昭和のニュース映像が好きなだけって噂も)。



次やるとしたら『八つ墓村』らしいけど、個人的にショーケン小川真由美の“鍾乳洞追いかけっこ”は夜泣きしそうなぐらいトラウマシーンなのですわ。ものごっつ怖いの。あれはなんとかいい女優さん見つけて再現して欲しいなあ。



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稲垣吾郎さん ぬかるんだ道越えて(2004/03/30 asahi.com)



*1:フジテレビの土曜映画枠であるプレステージの特別企画として制作3時間にわたるスペシャルドラマ。放映は4/3(土)PM8:00〜。直前に『ほん怖』もやってたためこの日の夜は“吾郎さんNIGHT”となった。

*2:『陰獣』『三角館の恐怖』

*3:“静かな演出”なんてしれっと書いてるが、実は私このドラマをあまりちゃんと観ていない。

*4:共同テレビの演出家。CX『奇妙な出来事』『世にも奇妙な物語』『if〜もしも〜』を始め、木8『放課後』『じゃじゃ馬ならし』『幕末高校生』『ヘルプ!』、CX『マエストロ』、陣内孝則版『明智小五郎』、火10『勝利の女神』『いいひと。』『ソムリエ』『僕の生きる道』、火9『小市民ケーン』、木9『恋愛詐欺師』などを担当。稲垣吾郎とは『ソムリエ』で組んでいる。

*5:CX金曜エンターテイメント枠で'94〜'99年に渡り『地獄の道化師』『吸血カマキリ』『暗黒星』『吸血鬼』の4本を演出。

*6:これが乱歩ものだと逆で、期待するのはまず「演出」なんだよなあ。

*7:公式サイトにあるプロデューサーのインタビューを読むと、“名探偵・金田一耕助の誕生秘話”の脚本は横溝家の監修が入りちゃんとお墨付きを頂いてるとのこと。