CX『放送禁止3』の<真実>とは一体なんだったのか?

自分なりに整理してみました。CX『放送禁止3〜ストーカー地獄編〜』のあらすじは↓こちらを参照。


実在する3人の人物の話及びその素性は全てウソ偽りない事実として信用し、画面上で語られてない部分については映像や台詞をもとに想像で補ってます。真実を手繰る上で出てきたつじつまのあわない部分を、『放送禁止3』制作スタッフの詰めの甘さととるか、視聴者をひっかけるための仕掛けととるかにより、情報の受け取り方・使い方は変わってくるだろうし、当然、そこから導き出される<真実>も変化すると思います。これから展開する説はあくまで私個人の視点から見た<真実>であり(願望も多分に含まれる)、他の人が見ればまた別の<真実>が見えるかもしれません。



以下、ネタバレになるので、未見の方はご注意を。(追記:2006年8月25日にDVDが発売されるので、それを見てからでも遅くはないです。)

放送禁止3 ストーカー地獄篇 [DVD]

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この番組は、取材中のある出来事によりお蔵入りになったVTRを、関係者の承諾を得て再編集し放送に踏み切ったものである。お蔵入りの原因となった出来事とは、おそらく、取材対象である佐久間希美さんが、取材中、図らずも過去に犯したAさん*1の殺害を告白したこと。これはスタッフが予測していなかった事態であり*2、ラストで流されたニュース音声*3が実際に報道されたニュース音声だとしたら、希美さんは取材後警察に引き渡されたと言うことになる。


「放送禁止」の世界において、筒井令子というのは実在するジャーナリストである。彼女は埼玉の大家族で起きた事件*4により一躍有名になった人物で、今回の取材をテレビ局に持ちかけたのはおそらく彼女の方。旬のジャーナリスト(しかも若くてかなりの美人)から持ちかけられた取材ならテレビ局も飛びつくだろうという目算があり、ここのスタッフは見事ひっかかった。希美さんを取材相手に決めたのも筒井氏*5。筒井氏は希美さんと知り合ったのは偶然だと話してるが、これはウソ。殺害されたAさんと筒井氏は兄妹の関係であり、3年前の兄(Aさん)の死に疑問を持った筒井氏は、何らかの方法で希美さんが兄を地下鉄のホームから突き落とした人物だと知る。ただ警察が希美さんを取り調べた形跡がないことから*6、警察を動かせるだけの証拠は掴んでいなかったように思う。そこで動かぬ証拠を手に入れるべく、今回のテレビ局を巻き込んだ大芝居を思いついた。筒井氏の目的は、精神的に希美さんを追いつめ、カメラの前で希美さんの口からAさんの殺害を自白させること。そのために人を雇い*7、半年前から希美さんに対しストーカー行為を続けさせた上で、素知らぬ振りして彼女に近づき、ストーカー被害の相談に乗ることで希美さんからの信頼を勝ち取り、今回のテレビ取材を承諾させたることに成功した。


Aさんの家族は、夫を殺した犯人が希美さんだと知ってて今回の筒井氏の計画に荷担したと思われる。何故、家族がグルなのかというと、テレビ局が取材に行った時、筒井氏と面識がありながら*8奥さんも息子も知り合いだというそぶりを見せなかったからだ。家を訪ねることは事前に筒井氏と打ち合わせ済みだったのであろう。スタッフを部屋の中に通す際に、「絵でも描いてなさい」と奥さんが息子にさりげなく指示していることから、子供に新幹線の絵*9を描かせたのも予定通りの猿芝居の可能性あり。ただしその場合、新幹線の絵によるネタ晴らしが誰に向けてのものなのかという疑問が出てくる。筒井氏や奥さんが気にしなければ行けない相手はあくまで取材スタッフと希美さんであり、テレビの向こうの視聴者を彼女たちが意識するのはおかしい。だから行動が不自然に見える。視聴者にヒントを与えるのが目的なら、Beta Delphinusさんも書かれているように、さりげなく机の上にでも置いといて、ちらっと映像におさめておくぐらいが良かったのかもしれない。あの絵じゃ新幹線だとわからないというなら、息子がお絵かきしてる部屋にスタッフを通し、絵を見たスタッフがなんとなしに息子に絵のことを尋ねたという形でもよかった。“スタッフの前でわざわざ絵を描かせる”という行為がヤラセ臭さに拍車をかけてるのだから、それさえ取っ払えばとりあえずはOKなのだ(子供の演技があれなのは、また別の問題)。(追記:「放送禁止」シリーズを制作してる長江ディレクターの話によれば、ヤラセ臭く見える箇所があるのはドキュメンタリーだと思って見てる人に「ほんとにこれドキュメンタリー?」と疑いを持たせるためにあえて入れてるとのこと。となると、新幹線の絵は子供が勝手に書いたものなのかもしれない。)


Aさんが生前ストーカー被害を受けていたことを、筒井氏や奥さんがいつどうやって知ったのかは明らかにされていない。ヒントとして与えられた弁護士のコメント*10から推察すると、Aさんは自分が女性からストーカーされていることを家族には打ち明けずにいたと思われる。ストーカーの相手がかつて不倫関係にあった希美さんなのだから、尚更だろう。それなのに彼女たちはどうやって知ったのか。生前のAさんの素振りから察したのか、日記でも残っていたのか…。筒井氏は希美さんに裏焼きしたAさんとの2ショット写真を送ってる。これは「あなたはストーカーの被害者ではなくなく、その逆、すなわち加害者ですよ」というメッセージであるが、この写真(ネガ)を、筒井氏はどうやって手に入れたのだろう。Aさんの遺品として残されていたのだろうか。この写真を入手したことで、Aさんと希美さんが不倫関係にあったことを知ったのかもしれない。



謎はこれ以外にもまだある。おそらく話を盛り上げるために作られた設定・映像なので細かいところまで詰めてないだけのように思うが、放っておくのもなんなんで一応突っ込んでおく。


まず、希美さんがAさんの死を知らなかったこと。希美さんは筒井氏から現在ストーカー行為をしてるのはAさんじゃないかと問われた時否定しなかった。Aさんが既に死んでることを聞かされた時の怯えようから見ても、本当に彼が死んでることを知らなかったと思われる。理由を考えてみると、まずひとつには、Aさんを地下鉄のホームで突き落とした時、ノイローゼ状態でよく覚えていなかった、もしくは発作的なものだったため起こした行為の大きさにショックを受け記憶から消してしまったことが考えられる。もうひとつは、本当に知らなかった。突き落としはしたが、彼が死んだかどうかを確認していない。電車による人身事故は日常茶飯事だから今更大きなニュースにはならない。Sさんの証言にあったように自分が反撃したことで我に返りストーカー行為をやめたと好意的に解釈していたのかもしれない。彼女はAさんからのストーカー行為に悩まされ今の家に引っ越したと語っている。引っ越しの時期とストーカー行為が止まった(=Aさんが死んだ)時期は同じ頃だろう。突き落とした後すぐ他の町に引っ越して、いっさいその駅には近づかなければ、ホームにおちたAさんがその後どうなったのかを知る機会はほぼなくなるだろう。


もうひとつの謎は、マンションの玄関ホール付近に設置されていた隠しカメラに映っていた、筒井氏がストーカー男の手を取り逃げていく映像。これがいつ映されたものなのかが判然としない。VTRの流れだと、希美さんが殺害を告白した後、外に飛び出した筒井氏が希美さんを脅しにやってきたストーカー男に気づき「仕事はもう終わり。警察が来るからここにいちゃやばいわよ」とばかりに外に連れ出したように見えるが、これはおかしい。希美さんがAさんの死を知り殺害を告白するまでの間、部屋の外でチャイムを鳴らしドアを叩き続けた人物がいる。ことが終わってからストーカー男が来たのだとしたら、ドアを叩いてた人物は誰? ここだけテレビ局のスタッフに頼んだとは考えにくい。それならストーカー男が来る意味がないからだ。スタッフは再編集する際に隠しカメラの映像を見直しこのシーンを見つけ挿入したのだろうが・・・。



話をストーカーに戻す。スタッフが視聴者に与えたヒント(実在の人物3人によるコメント)のうち、弁護士のコメントに関しては「ストーカーの被害者は男性であるAさん、加害者は女性である希美さん」ということを示唆したもので間違いないだろう。しかし後の2人のコメントは、必ずしもAさんが被害者で希美さんが加害者とは特定してないようにみえる。


まず精神科医のコメント。「ストーカーのほとんどは被害者と顔見知り」というのは、ストーカーに心当たりがないと言ってた希美さんに対する返答。気になるのはその次。「ストーカーの加害者は、自分がストーカーだとは思っておらず、むしろ自分こそ被害者で、自分を裏切った相手に仕返しをしてるだけだと正当化する。そのため周囲の人物にはしばしば加害者と被害者の立場が逆転して受け取られる」という部分。真のストーカーは希美さんだという立場で見れば、精神科医のコメントは一見、希美さんは加害者にもかかわらずその自覚が無く、自分こそがAさんからストーカー行為を受けてる被害者だと思いこんでおり、周囲の人間(すなわちこの番組を見てる視聴者)は希美さんの言葉を真に受け、ストーカー行為を行ってる人物(加害者)とストーカー行為を受けてる人物(被害者)を逆に受け取っている、ということを示唆してるように見える。しかし、それはAさんが真のストーカーだという立場で見ても当てはまる。ストーカー行為を行ってるAさんには自分がストーカーだという自覚がなく、周囲の人間(すなわち筒井氏や奥さん)からはAさんこそが被害者で、加害者は希美さんだと立場が逆転して受け取られている。


だが、そもそも精神科医の言ってる「被害者」「加害者」というのはそういうことではないのだ。彼の言ってるのは、ストーカー行為を行う側、受ける側のどちらが悪いのかという意味での「加害者」「被害者」であり、実際にストーカー行為を行ってるのはどっちかという意味での「加害者」「被害者」ではない。


次に実際にストーカー被害にあったことのあるSさんの証言。「恋人が別れた後にストーカーになった」というのは、不倫解消後にストーカー関係となったAさんと希美さんのことを指している。「相手は時に暴力を振るい、階段から突き落とされ怪我をしたこともある」というのは、ストーカーは時に人命に関わるような暴力を振るうことがあるということを示唆し、また地下鉄のホームからAさんを突き落としたのはストーカーである希美さんだということを示唆してる。逆にAさんのストーカー行為を告白する希美さんの口から暴力を振るわれたという話は出てきていない。問題は次。「ある日、自宅前で待ち伏せしてた彼に首を絞められ、殺されると思い反撃したら、我に返りストーカー行為がおさまった」という話。Aさんを被害者と見た場合、エスカレートする希美さんのストーカー行為に身の危険を感じたAさんが反撃したら希美さんのストーカー行為がおさまったという話はない。Aさんは反撃することなく殺されてしまっている。一方、希美さんを被害者と見た場合、無言電話だけではなく家の周りをうろつくようにまでなったAさんのストーカー行為を気味悪がった希美さんが、身の危険を感じ反撃、すなわちホームから突き落としたのなら、Aさんは我に返るどころか死んでしまったので、以来ストーカー行為はピタッとおさまってる。



筒井氏が提示した<真実>、すなわち、兄(Aさん)は不倫関係にあった希美さんからストーカー行為を受けたあげくに殺された、これは本当に<真実>なのだろうか。実際、ストーカー行為をしてたのはどちらなのだろう。Aさんなのか。それとも希美さんなのか。Aさんがストーカーをしてた証拠は希美さんの証言だけ。逆に希美さんがストーカーをしてた証拠は・・・無い。しいて言うなら、「兄をストーカー被害で亡くした」という筒井氏のプロフィールだけ。 



事実を積み上げたからと言って、それが真実になるとは限らない。あなたには真実が見えますか?



・・・見えません(汗)。


関連:「放送禁止」シリーズ過去記事一覧


*1:番組の中盤まではストーカーの加害者だと思われてた人物

*2:取材対象が「被害者を装った加害者」ということを知っていてインタビューしていたなら、「自白の過程を追ったドキュメンタリー」として放送することを前提として制作された番組ということになり、お蔵入りにする必要がない。

*3:「ストーカー行為の末、希美さんがAさんを地下鉄のホームから突き落とした」

*4:これはおそらく「放送禁止2」で起きた事件のこと。

*5:彼女からの紹介だというコメントあり

*6:取り調べてたらAさんの死を希美さんが知らない(or忘れてる)わけがない。

*7:郵便受けを漁りに来たストーカー男の手を引きマンションの外に逃げ出す筒井氏の姿が、テレビ局の設置したカメラに映されてる。「雇われた男」だとする理由は、あの男が筒井氏やA氏とより深い関係にある人物であるならば、筒井氏が写ってる仏壇前の家族写真のように、なんらかの証拠を呈示してくるはず。

*8:一緒に撮った写真が仏壇の側に飾られている。

*9:「新幹線=のぞみ=希美」である。子供は母親と筒井氏が「のぞみが殺したに決まってるわ」と話すのを聞いて「のぞみ(=新幹線)がお父さんを殺した」と思っているため、あのような絵を描いた。

*10:ストーカー被害にあってる男性はなかなか被害を届け出ない。