CX『魔都のエアポケット』さん、その一線は越えちゃダメ

先日の『放送禁止3』に続き、またまた来ましたよ、フジテレビ(嬉)。番組の詳細は公式ページに詳しく載ってるので観なかったという人は参照してください。そんな暇はない、めんどくさい、という人にかいつまんで説明するとこんな番組です*1

ユンソナが謎の男(宮迫博之)に指示されるというドラマ形式をとり、近年東京で起きた凶悪事件の現場を実際に彼女に訪ね歩かせることで、既に人々の記憶から忘れ去られようとしてるこれら数々の凶悪事件を、見てる者の記憶上に再び呼び覚まそうとする主旨のもとに制作された番組。取り上げられた事件は、世田谷一家惨殺事件、浅草レッサーパンダ通り魔事件、井の頭公園バラバラ死体遺棄事件、柴又女子大生放火殺人事件の4件。『魔都の〜』と言うだけあって、いずれも東京で起こった事件である。


ホリプロが制作に名を連ねてるから所属タレントであるユンソナをナビゲーター役に配してるわけだが、日本芸能界に活動の拠点を移してしまったがために韓国内では既に忘れ去られかけてる彼女の実体験と重ね合わせ、人々に忘れ去られることがどういうことなのかを伝えていく様が興味深い。


しかし、正直言って、この番組はダメです。面白かったけど、ダメです。言いたいことはわかる、企画の目的はわかる。でも、これは、この演出はダメです。マスメディアの人間が安易にこんなことしちゃいけません。


人によって意見は様々だろうけど、私個人は、UFO番組や幽霊番組、『水曜スペシャル』『電波少年』といったバラエティ番組に横行するやらせ演出を<娯楽の一部>として許容するだけでなく、「もっとやれー!もっとうまく騙してくれー!」と嗜好する人種だったりするわけですが、そんな不謹慎な嗜好を持つ私でさえ、「事実を伝える」ということをお題目にしてるニュース・報道・ドキュメンタリー番組で行われる事実をねじ曲げたやらせ演出がマズいという道徳観念ぐらいは持ってる。ある程度の演出が番組や作品の制作上なくてはならないものだと言うことぐらいはわかっているが、いくら演出と言っても、今回の番組のように<ノンフィクション(現実の事件)をフィクション(虚構の物語)と錯覚させるような演出>はやっちゃいけないと思う。それは、越えてはならない一線だ。50年も100年も経った昔話ならともかく、取り上げられた事件はいずれも数年前に起こった事件。時効にすらなっていない。


何故、現実と虚構を錯覚させるような演出をしちゃいけないのかというと、マスメディアによって伝えられる現実というのはそれぐらい曖昧模糊としたものであり、実際に事件を体験した当事者以外にとっては、伝えられる時の<枠組み>だけが現実と虚構を区別する拠り所だからである。「事件を風化させたくない」という高尚な意図があったとしても、「これはフィクションです」という信号を同時に発したのでは意味がない。



意欲作なのは認める。確かに番組としては面白かった。事件の概要を伝える際の細かな演出も好み。でもこの事件でこの演出はダメ。ダメなものはダメ。やるならせめて最後にこう付け加えてください。「これはフィクションです。しかし取り上げた事件は全て現実に起こった事件であり、訪れた場所は実際に事件が起こった場所です」と。


今後に期待しスタッフ列記。

[企画]藤谷剛(フジテレビ)[演出]石川北二 [演出補]當眞嗣朗
[撮影]小林茂浩 [VE]川崎修 [照明]佐藤大和 [メイク]西谷内めぐみ [衣装]岡田早苗 
[編集]馬場草 [CG]小城功夫 [MA]伊藤敬一 [音効]富樫佳織
[技術協力]COLOR TEC/SWISH JAPAN/サウンドエフェクト/麻布プラザ [写真提供]毎日新聞/読売新聞/共同通信社 
[プロデューサー]藤原努ホリプロ) [制作]フジテレビ/ホリプロ


演出の石川北二ってどっかで見たことある名前だと思ったら、先日放送が終了した木曜深夜のCX『お厚いのがお好き?』のディレクターだったよ。



*1:放送は2004年4月1日 1:35〜2:35 フジテレビ・ホリプロ制作。